Dr.中川 がんサバイバーの知恵

免疫力低下は本当か 岡江久美子さん急死の2つの可能性

夫の大和田獏は「残念で信じがたい」とコメント
夫の大和田獏は「残念で信じがたい」とコメント(C)日刊ゲンダイ

 女優の岡江久美子さん(享年63)が新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなりました。今月3日に発熱。自宅で様子を見ていたところ、6日朝に容体が急変し、緊急入院。人工呼吸器を装着し、PCR検査で陽性と判明したそうです。

 気になるのはこれまでの経過。所属事務所は、昨年末に初期の乳がんで手術を受けていて、今年1月末から2月半ばまで放射線治療を受けていたと発表しました。放射線治療医として見逃せないのは、その後のくだり。放射線による免疫力の低下が重症化した原因ではないかという部分です。

■白血球は背骨で作られる

 詳しい経過が分からないので個人的推量の範囲ですが、一般的に言って乳がんの手術後の放射線治療で免疫力が大きく下がることはまずありません。免疫を担う白血球は、骨髄で作られます。どこの骨かといえば、成人の場合は背骨が中心ですが、乳がんの放射線治療では胸骨や肋骨への照射はあっても、背骨への被曝はまれなのです。

 では、発熱から3週間あまりでの急変は、何が原因か。可能性は大きく2つあると思います。

 ひとつは、放射線による肺炎です。岡江さんのような乳がんの手術後の照射では、乳房に照射します。なるべく正常な部位を外すように綿密な計画を立てますが、それでも肺に当たるリスクがあり、まれですが、肺炎を起こすことがあるのです。晩期障害といわれて、照射後数カ月以降に見られるものでその頻度も1~2%に過ぎません。

 放射線肺炎のときに新型コロナに感染すれば、重症化の恐れがあるかもしれません。が、今回のケースでは照射後2カ月しか経過していないため、正直可能性は高いとはいえないと思います。

 もうひとつは、抗がん剤の可能性です。岡江さんが抗がん剤治療を受けていたかどうか分からないので、あくまでも一般論としてお話しします。

 乳がんの治療では、手術の前に抗がん剤で腫瘍を小さくしてから切除する方法があるほか、食道がんや子宮頚がんでは放射線と同時に抗がん剤を併用することも。どのタイミングであれ、抗がん剤を使用していたとすれば、白血球の低下リスクは低くありません。

 放射線も抗がん剤も、通院で治療できます。感染拡大の中、免疫力が低い状態で通院すると、感染リスクは高まるでしょう。しかし、がん治療とは無関係に感染した可能性もあり、個人的にはそのシナリオを最も考えます。繰り返しになりますが、詳しい経過が分からず、断言できないことはご承知ください。

 がん研有明病院では、手術を8割減らすと報じられました。今後、全国で手術の延期が相次ぎます。治療法は今まで以上にしっかり吟味し、その治療で免疫力がどうなるか。主治医に確認しておくことが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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