高齢者のアルコール依存症が急増 コロナによる孤独で拍車

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 外出自粛が続く中で、数が増えるのではと専門家が危険視していることのひとつが、高齢者のアルコール問題だ。

 リモートワークが始まり、自宅からほとんど出ないで過ごしている人も多いだろう。

 この状況は、アルコール依存症につながる問題飲酒に移行しやすい。リモートワークで飲酒開始時間が早まり相対的に飲酒量が増える上、今流行の「オンライン飲み会」は、自宅という安心から、飲みすぎる傾向があるからだ。

■過剰飲酒を止めるストッパーが少ない

 しかし働く世代であれば、仕事があるから平日は自制が働く。独身であっても食いぶちを稼がなければならないので、クビになるような行動は避けるだろう。家族がいれば、彼らの目も気になる。これらの「ストッパー」が少ないのが、65歳以上の高齢者だ。

「実は、高齢者の飲酒問題やアルコール依存症は関心が集まりにくいだけで、ここ数年で受診者は急増しています。そこに加え、新型コロナ対策からくる単身高齢者の孤立化は、酒量が増える要因になります」

 こう指摘するのは、大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)だ。

 急増している半面、高齢者の飲酒問題やアルコール依存症は表面化しづらい。

 その理由としてはまず、年金収入があるため経済的な底つきが起こりにくい。次に、定年退職後は行動範囲も限定され体力や認知機能の低下から外で問題飲酒につながる要因が少ない。仕事はリタイアしているので「欠勤が続いているが、どうなっているのか」など会社から問い合わせが来ることもない。

 さらに、家族も「あの人が働かなくてもお金は入ってくるから」と、対策を講じないケースがある。むしろ「好きなお酒くらい最後は自由に飲ませてあげたい」「飲んでた方が静かだから」などと、積極的に飲酒を推奨する家族もいる。

「寝たきりで失禁したり、褥瘡ができていても放置する、いわばネグレクト状態の家族もいます」(斉藤氏=以下同)

 私たちが念頭に置いておきたいことは2つだ。1つは、親と離れて暮らしている場合、知らないうちに親がアルコール依存症の入り口に立っている可能性がある。

■妻を亡くしたタイミングで…

「ずっと適度な晩酌だった人でも、なんらかの喪失体験をきっかけに問題飲酒に移行し、やがてアルコール依存症に至るケースがあります。そして65歳以上になると、ライフサイクルの中で避けられない喪失体験が多々ある。特に、男性ほどその傾向が見られます」

「定年退職で自分の存在意義を見失った」「家庭に居場所がない」「身体機能や性機能が低下し男として自信を失う」「体力の衰えを感じる」「友人や同級生を亡くす」「配偶者を亡くす」――。

 中でも、配偶者を亡くした後、その喪失感から空いた時間を全て酒につぎ込むようになる人は男性に多い。

 それを食い止めるには、子供である自分と家族が電話をしたり、実家を訪れるなどして喪失した心の隙間を少しでも埋めていくしかない。高齢者のアルコール依存症の治療をやっている専門機関を探して相談する手もある。

 高齢者のアルコール依存症は、他人事として切り捨てられない。これが、念頭に置いておきたいことのもう1つだ。

 自分の将来の姿でもあると考え、喪失体験から酒に耽溺しないための手だてを講じておくべきだ。

 それは、生活習慣や飲酒習慣を変えることでもあり、もしもの時に自分を支えてくれる家族や友人関係を今から築くことでもある。「何もすることがない。飲むか」とならないように。

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