病の克服は患者に聞け

新型コロナ<番外編>ウイルスを抱えたまま退院を受け入れた

実業家の渡辺一誠さん
実業家の渡辺一誠さん(提供写真)

 新型コロナウイルスの感染で、都内病院の個室に隔離入院していた渡辺一誠さん(40=東京・港区)は、退院予定が1週間ほど延びたものの、4月10日に晴れて退院できた。

 政府が、「新型コロナウイルス緊急事態宣言」を発令してから3日後のことである。

 入院当日、看護師から、「だいたい2週間の入院ですよ」と告げられてから、指折り数えて待ち望んでいた退院日である。

 通常ならステップを踏みながら病院を出るのに、退院と告げられても、渡辺さんの顔から笑顔が消えていた。どういうことだろうか。

 コロナ治療医の判断によると、入院治療中、ウイルス感染の検査を行い、「陰性」が2回出たら退院の目安にされていた。

 ところが渡辺さんの場合、健康は回復していたが、検査をすると、まだ陽性反応が出ていた。しかも反応は強い。まぎれもない新型コロナウイルスの保菌者。それなのになぜ退院が許されたのか。

 渡辺さんは、「病院に、退院を1度は断りました。でも、体が回復したことで、重症の患者さんに病床を空けることを優先しました」と言う。

 これが退院の真相で、渡辺さんは、懸念されていた医療崩壊を図らずも経験したことになる。

「コロナウイルスを抱えて退院」など、気持ちはすっきりしなかった。頭の中で、霧がかかっているようなあんばいである。

 退院時、保健所から、「この陽性の状態で、2週間自宅で待機をしますと陰性と見なします」と説明された。

「自宅待機2週間で陰性になる?」

 渡辺さんは、保健所の説明を聞き間違えたかと思い、あらためて担当医師に確認すると、「希望があれば退院2週間後、保健所の方でPCR検査を行ってくれます」と言われたという。

 ほぼ3週間に及ぶ入院生活で渡辺さんは連日、テレビや新聞報道に触れてコロナの知識が随分と豊かになった。米国では、コロナの保菌状態を6週間とみているらしい。その点、日本は、そんな曖昧な陰性基準で大丈夫なのだろうか。

 もう1点、渡辺さんが陽性反応のまま退院するにあたって大きな疑問が湧いていた。退院当時、成田国際空港では、海外からの渡航者や帰国者に、自宅やホテルでの2週間滞在を要請していた。併せて、空港からの移動に公共の交通機関を使用しないことも、日本に入国する条件になっていた。感染者数を抑えるためである。しかし、コロナウイルスの陽性を持つ退院患者は、帰宅は自由でも、移動手段の条件はない。

 渡辺さんは、「病院から自宅に帰るまで、果たして、人に接触しないで帰れるのかという疑問が出てきました。入院するとき、病院からタクシーに乗らないようにと忠告されて、だるい体で会社から歩いて来たのです。退院後は、ウイルスを抱えて、どこまで人と接触してもいいのかと迷ってしまいました」と言う。 (つづく)

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