絶望してはいけない 命をつなぐ僧侶の言葉

「気持ちは必ず変わる。物事はすべて変化していくから」

曹洞宗長寿院の篠原鋭一住職
曹洞宗長寿院の篠原鋭一住職(C)日刊ゲンダイ

【Q】飲食店を経営していましたが、もともと借金がかさんでいた上に、今回のコロナ禍で2カ月休業を余儀なくされ、営業再開後も客足が戻りません。すでに家賃を滞納していたうえ、今後はまったく払えなくなりそうで、このままだと店を続けられなくなります。店を閉めても借金が残るだけで、この先の人生どうしたらいいのかと途方に暮れています。


【A】私は千葉県成田市にある曹洞宗長寿院で悩み相談や自死予防の活動を続けてきました。今回のコロナでも、さまざまな人から仕事がなくなったとか、家庭が崩壊しそうだといった、悲鳴にも似た電話がかかってきています。

 先日も、寿司職人の方から、コロナで行き詰って、借金だけが残って、もう死ぬしかない。海に向かって歩いているけど、誰かと話したかったから電話した、と連絡がありました。そこで私は、今回のコロナは誰に責任があるわけでもない。自然界で起きたことで、人間にはどうしようもなかったんだから、債権者が来たら払えないものは払えない。ごめんなさいと居直れって言ったんです。彼はそんなことできないって言ったんですけど、国の助成金だってあるんだから、頭の中でこれからどうしたらいいか組み立てていけばいいと言いました。彼はもし気が変わって生きていたら、私の寺まで会いにくると言って電話を切ったんですが、まだ解決法が残っているのに死のうとするのは短絡的だったと気付いたのでしょうか。大変なことに遭遇すると、きちんと物事が考えられなくなってしまうんですね。

 彼は気が変わったら、と言いましたが、気持ちは必ず変わる。変わらざるを得ないんです。なぜなら物事は必ず変化していくから。不変のものはないんです。だってあなた今日私に電話してきたじゃない。私はあなたからの電話なんか予期していなかった。あなたと私がいま電話しているということは、昨日と今日で状況が変わったということでしょう。だから明日になったらまた違った変化が出て来るはずだと伝えました。

 どうしても店の家賃が払えなかったら、払わなくてもいいんですよ。また新しいところで始めればいい。前と同じような場所でやろうとするから、次はできないとなるので、地方に行けば、店を開くなら場所を貸します、助成金を出しますという市町村がいっぱいあります。コロナという変化を私たちはすでに受け入れてしまったんだから、それに続く変化も受け入れればいいんです。

 やっぱり自分の店を開くのが無理だったら、人の店でパートタイムで働くのだっていいじゃないですか。仕事がないっていうけど、街を歩いていれば、スタッフ募集の張り紙がいっぱい貼ってありますよ。休業中にスタッフを解雇してしまって、再開したはいいけど、一度やめさせたスタッフが戻ってきてくれない、という店だってありますから。パートじゃ嫌だと言うかもしれないけど、最低でも一日に食べるごはん代が稼げればいいじゃないですか。

 コロナという事態は突然来たから、皆よく考える時間がないままに慌ててしまっているけど、これはいま皆が共通して抱えている苦悩なんだから、ひとりだけの問題じゃない。少し立ち止まって考えれば、工夫次第で道を切り開く方法はいろいろあるはずです。なにしろ、物事はすべて変化していくのですから。

▽篠原鋭一(しのはら えいいち)「自殺志願者の駆け込み寺」としてしられる千葉県成田市の曹洞宗長寿院住職。1944年生まれ。兵庫県豊岡市出身。曹洞宗東南アジア難民救済会議の結成、カンボジアの難民キャンプで教育活動、中国少数民族の教育活動などに携わる。1994年にカンボジア国王より「国家建設功労賞」が授与。

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