新型コロナ後遺症の正体

新型コロナから回復した人の3割以上に呼吸器の後遺症

中国・武漢の病院で新型コロナウイルスによる肺炎の患者の対応にあたる医療従事者
中国・武漢の病院で新型コロナウイルスによる肺炎の患者の対応にあたる医療従事者(新華社=共同)

 新型コロナウイルス肺炎はインフルエンザ感染より重症化しやすく、武漢やニューヨークでの致死率は20%以上である。

 肺は肺胞細胞という呼吸袋が無数に集まり、これに血管やリンパ管、それらを支える間質組織が入り込んで成り立っている。ウイルスがACE2受容体を介して気管支や肺の細胞に感染すると、免疫反応で防御しようとする。しかし、過剰な反応が起こりやすく、サイトカインスト―ム(免疫暴走)が生じる。そして肺胞細胞と間質の両者を破壊する強烈な肺炎が生じ、肺全体が圧縮されて気管支も圧迫されるので、痰を出せなくなる。そして肺機能は消失する。重症になると人工呼吸器でも呼吸の維持は難しく、「エクモ」と呼ばれる補助循環装置でしか助からない。

 肺炎の診断には胸部X線写真よりCTが有効である。もちろん、感染して呼吸器症状が出てもCT画像に出ないことがあるし、逆に症状が無くてもCTで肺炎がみとめられることもある。しかし、高度発熱の数日持続や胸部X線写真での肺炎診断時にはかなり病変が進行している可能性がある。

■肺障害が進行したときには手遅れとなることも

 中国武漢市の金銀潭病院で、2019年12月から2020年1月26日の間に新型コロナウイルスによる重症肺炎のためICU(集中治療室)に入室した患者52例(平均年齢は59.7±13.3歳、67%が男性)では、40%に慢性疾患、51%に発熱。61.5%が入院から28日以内に死亡、死亡例では生存例よりARDS(急性呼吸窮迫症候群)発症率(81% 対 45%)と人工呼吸器管理実施率が高かった(94% 対 35%)。ニューヨークでも同様の結果であり、患者急増下で医療崩壊が生じるとこのようになる。

 高齢者、喫煙者や気管支喘息などの肺疾患を有する人、心血管病、糖尿病などの持病がある人、ステロイドなどの服薬で免疫能が落ちている人は高リスクである。肺胞細胞と間質および細い気管支にわたる広範な炎症で肺機能のかなりの部分が破壊された後は当然、重症の後遺症が残る。

 ウイルス感染による直接的肺の障害と過剰免疫反応であるサイトカインストームにより間質性肺炎が生じるが、後者の関与が大きい。肺の間質や微細な血管に炎症が起こり血栓もできる。間質は硬くなり浮腫みも生じ、肺胞細胞が膨らめなくなる。さらに肺胞細胞も壊れてゆき、肺全体が低酸素状態となる。初めは二酸化炭素がたまらないので、呼吸困難感が少ないので、肺障害が進行したときには手遅れとなることも多い。「エクモ」を使用した患者では肺が石のように固くなることもあると言われている。

■完全に治らない人も多い

 一方回復は、肺胞細胞や毛細微小血管が再生ができるかどうかにより決まるが、これにはウイルスの量や炎症の程度が影響する。血管の再生は数日以内に始まり、肺細胞はかなり遅くに始まる。肺組織の再生にかかる時間は、実験データーから推測すると、一カ月以上とみておいた方が良いと思う。

 インフルエンザなどのウイルス性肺炎や細菌性肺炎では、CT検査画像をでもほぼ完全に治っている人もいるが、このウイルスでは肺線維化が起こるので、完全に治らない人も多い。この肺炎では、12週間後に再度CT検査をする必要がある。中国のある研究では、患者70人のうち66人に、退院後もある程度の肺の損傷がみられるとしていた。

 さらに炎症により血液が固まりやすくなり、肺動脈内にできる血栓が肺末梢血流を減らし、慢性肺血栓塞栓症のような状態になることもあり得る。この肺組織そのものと肺血流の両方が傷つくことで、非常に深刻な後遺症生じ得る。

 若い人でも呼吸機能は低下し運動能力が落ちるので、欧米では運動選手の選手生命が失われることが懸念されている。新型コロナから回復した人の3割以上に何らかの呼吸器症状が残ると報告されている。また、中高年では、肺機能低下のみでなく右心不全、肺高血圧症が残ることも多い。

 肺の後遺症は、呼吸機能検査、肺シンチグラフィ、CT画像検査などで評価できる。また、肺炎による右心不全は心臓超音波検査で簡単に診断できる。高血圧症や心臓血管病などの持病のある人は、容易に心不全や呼吸不全になりうる。老若男女を問わず、新型コロナウイルス肺炎に罹った人は、呼吸器のみでなく心臓血管も含めた精密検査を受けたうえで、ベストの治療を受けた方が良い。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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