コロナ第2波に打ち勝つ最新知識

軽症がいきなり重症化「幸福な低酸素症」はなぜ起きるのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症の特徴のひとつに、軽症に見えた人が突然、重症化することがある。

 背景には、本来なら、生命維持が困難なほどの低酸素状態にありながら呼吸困難の兆候がない「幸せな低酸素症“happy hypoxia”」と呼ばれる「無症候性低酸素血症」の存在があるという。なぜ、新型コロナウイルス感染症にはこのような病態が見られるのか? 弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

「低酸素血症とは、動脈血中の酸素が少なくなる状態のことを言います。本来、人は呼吸によって酸素を吸い込むと、動脈血に酸素を溶かして全身に巡らせ、体の細胞の隅々に酸素を供給します。ですが、低酸素血症になると、動脈血に溶ける酸素量が著しく少なくなるため、体の隅々に酸素を送ることができなくなるのです」

 通常はそうなると、頭痛やめまいなどとともに息切れ、呼吸の増加などの呼吸困難な症状が出るが、進行がゆっくりだと、比較的楽に呼吸ができて初期症状が出ずにいきなり重症化する。

「新型コロナウイルス感染症では携帯電話で話した人が数分後に重症化するようなことが起きている。まさに幸福な低酸素症で、この病気には低酸素症になっても初期症状を起こさない仕組みがあると考えられています」

 呼吸の調節は延髄を中心にした呼吸中枢で行われ、脊髄を介して横隔膜や肋骨筋などの呼吸器の筋肉に情報が伝わり呼吸運動が行われる。

 呼吸中枢は、大動脈や頚動脈に接して動脈の血液ガス(酸素、二酸化炭素、pH)の変化を感知する化学受容体(センサー)、呼吸運動を感知する気道、肺、胸壁の機械受容体からの情報などを迷走神経や舌咽神経などを介して得ている。

「通常、二酸化炭素が増加、酸素不足で呼吸困難を生じますが、新型コロナウイルス感染症の患者の中には血液中の酸素飽和度が通常の90%以上から大きく低下していながら、比較的楽に呼吸できている人がいます。ハッキリした原因はわかっていませんが、ウイルスによりセンサー機能が障害され、二酸化炭素の増加と酸素不足を認識できなくなっているのかもしれません」

 そんなことがあるのか、と思ってしまうが、慢性肺疾患の場合、炭酸ガスを監視するセンサーが機能しないため呼吸の調節は酸素の量の変化だけで行われ、少し酸素を吸うだけで呼吸中枢が十分だと思い込むことによって、呼吸が止まるケースがあるという。

 ちなみに、新型コロナウイルス感染症になると一時的に味覚や嗅覚を失う人も多い。これは呼吸運動に関係する神経経路が味覚や嗅覚の経路と共有されていることと関係しているとの見方もある。

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