マスクはウイルスを吸い込むことも防いでくれる――。そんな報告が相次いでいる。つい最近まで、マスクは着用している人が周囲に飛沫をばらまくのを防ぐ効果しかないと思われていた。
ところが、理化学研究所(理研)は、スーパーコンピューター「富岳」を利用したウイルス飛沫感染のシミュレーションの結果を発表。不織布マスクを着用することで、上気道に入る飛沫数を3分の1にすることができ、特に大きな飛沫については、侵入をブロックする効果が高いという。
また、東京大学医科学研究所の研究グループが行った新型コロナウイルスを使った実証実験でも、マスクを装着することで、新型コロナウイルスの空間中への拡散と吸い込みの両方を抑える効果があることが明らかになった。
ちなみに、東大医科研の実験では2つのマネキンの頭部のうち、片方のマネキンは感染者に見立て、ウイルスを含む飛沫とエアロゾルを軽い咳のように吹き出させた。感染者を再現したもう一方には人工呼吸器をつけて呼吸を再現。ウイルスの付着量を調べるため、呼吸経路にゼラチンの膜を張ったという。
■材質やつけ方で差が出る
公衆衛生に詳しい岩室紳也医師が言う。
「マスクが新型コロナウイルスの体への侵入を防ぐことが科学的に証明されたのですが、研究でもマスクなら何でもよいというわけではなく、素材により防御能力に差がありました。富岳のデータからは、一般的に使われているマスクでは不織布マスクに効果がありますが、布マスクだと吸い込みを抑える機能はいまいちだということがわかりました。多くの人が着用しているポリウレタンマスクについては言及していません」
東大医科研の研究では、ウイルスの吸い込み量はマスクなしと比べて布マスクだと60~80%に、不織布マスクだと53%に、外科用のN95マスクを密着して使用すると10~20%まで抑えられたという。しかし、この結果は「N95マスクは最も捕集しにくいといわれる0・3マイクロメートルの微粒子を95%以上捕集できることが確認されているマスク」とされている常識と矛盾する。
「ただし、これらの研究結果はあくまでも実験室内での話です。それですら適切に装着しなければその防御効果は低下し、マスク単体ではウイルスの吸い込みを完全には防ぐことができないことを東大医科研の研究グループも認めています。しかも富岳の実証実験では、マスクは正しく装着していても、20マイクロメートル以下の小さな飛沫に対する効果は限定的であり、マスクをしていない場合とほぼ同数の飛沫が気管奥にまで達すると報告しているのです」
つまり、マスクをつけていれば安心というわけではなく、ソーシャルディスタンスや換気といったその他の感染予防と組み合わせない限り効果は限定的というわけだ。
「そもそも、どのくらいの量のウイルスが体内に侵入すると感染するのかは誰もわかっていません。感染経路も、感染者が吐き出し空中に浮遊する5マイクロメートル未満のエアロゾルの中からウイルスが検出されたことが事実としても、それを1個吸い込んだら必ず感染するわけではありません。つまり、『マスクで○%ウイルス量をブロックした』ということが感染リスクを低下させる、というのはウイルスを浴びた量が多ければ多いほど感染しやすい、という確率論からくる推測に過ぎないのです」
マスクの着用は必要だ。だからといってその力を過信してはいけないが、つけるのであれば、不織布マスクにこだわるべきということだ。