進化する糖尿病治療法

減量手術を受ければ食事制限と運動なしでも痩せられる?

減量手術は痩せるためのものではない
減量手術は痩せるためのものではない

 実施している医療機関は限られていますが、肥満の治療として、「減量手術」があります。胃を小さくし、食事摂取量の制限をするもので、美容形成外科で行われる皮下脂肪吸引・切除とは異なります。

 減量手術の目的は、肥満が招く脳卒中や心筋梗塞、腎不全、がんなど重篤な病気のリスクを下げること。だれもが受けられるものではなく、日本肥満症治療学会のガイドラインでは、減量手術の適応を、「年齢が18歳から65歳までの原発性肥満で、食事療法や運動療法といった内科的治療を受けても十分な効果を得られない人」としています。原発性肥満とは、遺伝的な体質に環境要因(食習慣、運動不足、ライフスタイル、ストレスなど)が加わって起こった肥満。ホルモン異常など病気が原因で起こる肥満(2次性肥満)ではないものを指します。

 さらに、減量が主目的の場合はBMI35以上、併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肝機能障害、睡眠時無呼吸症候群など)の治療が主目的の場合はBMI32以上――といった条件が加わります。

■保険適用の術式もあるが…

 減量手術にはいくつかの手法があるものの、日本で保険適用になっているのはスリーブ状胃切除だけ。胃を切除してバナナのように細くし、食事摂取を制限します。食欲を刺激するホルモンが減少し、糖尿病の改善も期待できるといわれています。一般的には腹腔鏡で行われます。

 繰り返しになりますが、減量手術の目的は、命に関わる重篤な病気のリスクを下げること。楽して痩せるためのものではありません。手術前には、肥満症治療コーディネーターや栄養士、理学療法士などのサポートによる食事療法、運動療法をしっかり行いますし、手術後も食事療法、運動療法は欠かせません。

 甘い気持ちで減量手術を受ければ、見かけの体重が変わるだけで体質は改善していないので、術後数年でまた肥満に戻ってしまいます。特に、保険適用のスリープ状胃切除は肥満が再発しやすい点が指摘されています。日本人はそもそも欧米人と比較し、太りにくい体質。速やかな肥満解消が求められる一部の人を除き、私個人的には減量手術はベターな選択ではないと考えています。

 一方、最近とみに注目が高まっているのが、糖尿病の治療薬であるGLP―1受容体作動薬です。GLP―1は体内にあるホルモンで、血糖値を下げる働きがあります。インスリンの働きが悪くなっている糖尿病患者が薬で体外からGLP―1を補うことで、膵臓からインスリンが分泌されて、血糖値が下がるのです。

 このGLP―1受容体作動薬は、体重減少効果もあり、欧米では肥満の治療薬として認可されています。日本では、日本人を対象にしたエビデンスがないので、肥満に対しては治療薬として承認されていません。アジア人と欧米人とでは体重の増え方が違うので、欧米人で問題なく使えても、アジア人でも同じように使えるとは言えないのです。過度に太っておらず、糖尿病でもない人に対し、美容目的でGLP―1受容体作動薬を自費診療で使う動きがあり、それを規制する警告も出ています。もちろん、糖尿病がある人に対しては、GLP―1受容体作動薬は問題なく使えます。肥満解消にいいほか、単独では低血糖を起こしにくいという利点があります。

 最近は、同薬を使用した場合、心血管死が減少したという報告も相次いでいます。さらに糖尿病患者にリスクが高い心不全の改善にも効果があるのではないかと言われ、研究が行われています。ただし、心不全に関してはマイナスに働く研究結果も複数出ており、心不全のリスクがある糖尿病患者には慎重な使用が必要です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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