コロナ禍で増える“ストレス歯痛”とは…歯科医が解説

写真はイメージ
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 新型コロナ禍の影響で「歯が痛い」と訴えて歯科医院を受診する人が増えている。院内感染を警戒して通院を控えたことで虫歯や歯周病を悪化させてしまった患者もいるが、ストレスによる歯痛が目立つという。小林歯科医院の小林友貴氏に詳しく聞いた。

「虫歯でも歯周病でもないのに歯が痛いというケースは、日頃から少なくありません。多くは、ストレスによって無意識に上下の歯を強く噛みしめる『食いしばり』や『歯ぎしり』を過度に繰り返していることが原因です」

 われわれの歯は、歯根と呼ばれる下方部分が顎の骨の中に埋まる形で支えられている。歯と骨の間には「歯根膜」という組織があり、クッションの役割を果たしている。飲食などで上下の歯を噛み合わせた際、歯から顎の骨に伝わる力を分散して、どこか1カ所に負担がかからないような仕組みになっているのだ。

「歯根膜の厚さは日本人は平均0・2ミリですが、食いしばりが長時間続いたり、頻繁に歯ぎしりをしたりしていると、徐々に歯根膜が潰れて薄くなっていく。すると、特定の歯や顎の骨にかかる負担が増えて歯根膜が炎症を起こします。炎症があると今度は逆に歯根膜が膨らんできて、いわゆる『歯が浮いた』感覚になる。噛み合わせるたびに浮いた歯と顎の骨に負担がかかるため、慢性的な痛みが発生するのです。これを『咬合性外傷』と呼びます」

 今年は、新型コロナ感染に対する不安や、日常生活に制限を受けるストレスが増大している。さらに、テレワークや外出自粛が続いた影響により、自宅でパソコンの前に長時間座っていたり、スマートフォンを操作したりする機会が大幅に増えたという人は多い。人間は集中すると無意識に歯を食いしばる傾向が強く、「グラインディング(歯をこすり合わせる歯ぎしり)やクレンチング(無意識に歯を強く噛みしめたり食いしばる)では、睡眠中の非覚醒時よりも覚醒時の方が強い力がかかる可能性がある」という報告もある。つまり、コロナ禍でもたらされるストレスや生活習慣によって、虫歯でも歯周病でもない歯痛に悩む人が増えているのだ。

■付箋紙を使って食いしばりを防ぐ

「咬合性外傷の痛みに対する治療は、負担がかかっている歯を少し削って噛み合わせの調整を行いますが、過度の食いしばりや歯ぎしりの原因になっているストレスを解消したり、生活習慣を見直したりしなければ同じ歯痛を繰り返す可能性が高いといえます。噛み合わせを改善しようとすぐにマウスピースを作ろうとする歯科医もいますが、患者さんにとってはマウスピースを装着すること自体、大きなストレスになる場合が多い。ですから、まずは日常生活で無意識に行っている食いしばりを減らす工夫を実践するのがお勧めです」

 自宅や職場のパソコン、デスク周り、テレビ、スマートフォンなど、目につきやすい場所やツールに「食いしばらない」「歯を離す」などと記した付箋紙を貼って、それを目にした時に力を抜いて上下の歯を離すようにする。

 これを繰り返していると、上下の歯が接触すると反射的に歯が離れるようになり、食いしばりが解消されて痛みも出なくなるという。

「ただ、咬合性外傷の中には、歯周病が進行して歯を支える組織が失われ、歯がぐらつくことで特定の歯に負担がかかり痛みが出る『二次性咬合性外傷』と呼ばれるケースもあります。その場合、歯周病の治療も必要になるので、歯に痛みがある時は早い段階で歯科を受診してください」

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