大量の汗で悩む人に…日本初「多汗症」の保険適用薬が登場

手をつなげない人も…
手をつなげない人も…(C)日刊ゲンダイ

 手のひらが汗でぐっしょり濡れる。脇汗がひどい……。大量の汗に悩まされている人は、「多汗症」という疾患かもしれない。11月末に、日本で初めての保険適用の外用治療剤(塗り薬)が発売された。

 感染症や内分泌代謝異常などの病気があると、大量に汗をかくことがある。しかし病気がなく、手のひらや足の裏、脇の下、頭、顔面といった局所に大量に汗をかくことが6カ月以上認められ、かつ「両側性で左右対称性」「毎日の生活に支障を来す」「1週間に最低1回の大量の発汗作用」「最初に症状が出るのが25歳以下」「家族歴があることが多い」「睡眠中は局所多汗は認めない」のうち2項目に該当する場合、原発性局所多汗症と診断される。

 東京医科歯科大学皮膚科学分野・横関博雄教授によれば、患者の主訴としては次のようなものがある。

「サンダルやミュールが滑って歩くのが大変」「授業中や試験中に手のひらからの汗が止まらない」「手をつなげない、握手できない」「大量の汗で携帯電話やパソコンがさびたり壊れたりする」「洋服の汗しみがひどい」「汗脇パッドが落ちる」などだ。

「登校拒否や進学断念、うつ状態になる人、就職してから業務に差し支える人もいます。非常に生活の質(QOL)が低い疾患です」(横関教授=以下同)

 原発性局所多汗症の重症度は重症度評価尺度(HDSS)で4つに分類できる。

 患者5807人を対象にした全国疫学調査(2013年)では、重症に該当する人が半数近くを占めた。

 一方で、原発性局所多汗症の医療機関の受診率はわずか6・3%という調査結果がある。

 同調査では、47・8%の人が制汗作用のない、つまり効果が見られないデオドラント剤を使用しているという結果も出た。

「原発性局所多汗症の認識は高くなく、一部の診療所ですが『病気ではない、放置すれば治る』と帰されてしまった患者さんもいます」

 今回、日本で初めて保険適用の外用治療剤が登場した。対象は、脇の下に大量の汗をかく多汗症(原発性腋窩多汗症)。これまでの治療法は、「まず塩化アルミニウムの外用剤→効果がなければボツリヌス毒素(ボトックス)の注射→効果がなければ塩化アルミニウムの外用剤とボツリヌス毒素の注射」という流れだったが、ファーストチョイスの外用剤塩化アルミニウムは保険適用ではなかった。

「そのため、塩化アルミニウムは市販剤を使うか、薬局で調剤してもらうか。外用剤の治療をきちんとできていないクリニックも多い」

■1日に1回塗るだけ

 日本初の保険適用の外用薬「ソフピロニウム臭化物ゲル(商品名エクロック)」は、エクリン汗腺とアポクリン汗腺の2つの汗腺のうち、エクリン汗腺に働きかける作用がある。原発性局所多汗症の汗はエクリン汗腺から分泌される。

「エクリン汗腺は交感神経により調節されており、アセチルコリンがエクリン汗腺のムスカリン受容体サブタイプ3(M3)を刺激し、発汗を誘発すると考えられています。エクロックの有効成分は、エクリン汗腺に発現するM3を介したコリン作動性反応を阻害し、発汗を抑制します」

 1日1回、両脇の下に十分量を塗る。塩化アルミニウムは皮膚炎を頻回に起こして途中で使用をやめざるを得ない患者が少なくないのに対し、エクロックは皮膚に対する副作用はほぼなく、同種の薬に見られる口の渇きなど全身性の副作用も少ない。治療のチャンスがある。まずは、脇の下の汗の悩みを一人で抱え込まないことだ。

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