専門医が教える パンツの中の秘密

昭和の農村では日常だった 女性の「立ち小便」と専用小便器

旧国立競技場のトラック下に「サニスタンド」が設置されていた
旧国立競技場のトラック下に「サニスタンド」が設置されていた(C)共同通信社

 男性のペニスは、実に機能性に優れています。それは「立ち小便」ができるからです。公衆トイレでは、ズボンのチャックを下ろすだけで素早く用を足すことができ、女子トイレのように行列に悩まされることはめったにありません。

 では、女性は立ち小便ができないのでしょうか。

 実は、昭和初期までの農村では、女性が立って小便をする光景は珍しくありませんでした。昔は着ている物は、だいたい腰巻きに着物、パンツははいていません。立ち小便の仕方は、着物の裾と腰巻きをたくし上げ、股を開いて軽くおじぎをした中腰姿勢で放尿するのです。これなら畑仕事の間に尿意をもよおしても、その辺で簡単に用を足せたわけです。

 また、米国では男女兼用の立ち小便器が1920年代には販売されていました。その後、女性向けの「サニスタンド」という小便器が注目を浴びるようになったのは30年代後半です。それはナイロン製のストッキングが開発され、便座に腰かけて用を足すと膝が曲がり、ストッキングが伸びたり伝線したからです。中腰姿勢の立ち小便なら、それが防げたのです。

 サニスタンドは、日本でも1951年にTOTOから発売されています。64年に東京五輪が開催された旧国立競技場のトラック下につくられたトイレにも設置されていました。しかし、中腰での排尿には抵抗が強く、普及せずに71年には生産中止になっています。

 このように男性のペニスは構造上便利なのですが、年を取ってくると不都合が起きてきます。男性の尿道は約20センチと長く、途中でS字状にカーブしています。前立腺肥大症などで尿の勢いが弱くなると、排尿後にペニスの根元より奥の尿道部分(球部尿道)に尿が残ってしまうのです。すると排尿後、ペニスをパンツにしまった後に尿が漏れる通称「ちょい漏れ」が起こるのです。ちょい漏れは男性の構造上の問題なので、立ち小便姿勢よりも洋式便座に座り小便姿勢の方が起こりやすいといわれます。いまの家庭のトイレの多くが洋式便座で、「汚れるから座ってして」と奥さんから言われている人も多いでしょう。そこで対策として「ミルキング」という排尿後の処置があります。やり方は、ペニスの下に手を入れ、睾丸の後ろから尿道を押し上げるように残っている尿を絞り出すのです。排尿後、2~3回繰り返してみてください。

 女性の方で、男性のように立ち姿勢で前に尿を出す「立ち小便」を経験したい人は、専用グッズがあります。登山・アウトドアグッズで、漏斗(じょうご)型をしたトイレサポートがネット通販などで購入できます。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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