新型コロナ後遺症「精神症状」を軽く考えてはいけない

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 新型コロナウイルスの感染者が増加するにつれ、後遺症を訴える人も増えている。新型コロナウイルス感染症そのものは軽症で回復した人でも、後遺症に悩まされるケースは少なくないという。咳や呼吸困難などの呼吸機能障害をはじめ、倦怠感、頭痛、動悸、嗅覚・味覚障害、脱毛など症状は多岐にわたる。中でも、軽視できないのが不安や抑うつ状態といった精神症状だ。

 コロナ病棟が設置されているある病院で、コロナ患者を診ている医療チームのスタッフのひとりが自分も感染してしまった。幸いにも感染症は軽症で問題なく回復したが、2週間の自宅隔離を終えた後で強い不安感に襲われた。さらに、だるくて何もする気にならず、そのまま一歩も外に出られなくなってしまった。いまも現場には復帰できていないという。

 中等症~軽症のコロナ患者を受け入れている江戸川病院の加藤正二郎院長が言う。

「新型コロナウイルス感染症の後遺症は主に3つに大別されます。炎症によって肺や嗅覚・味覚が障害されるケース、感染で生じた血管炎が要因でさまざまな症状が表れるケース、そして、メンタル不調を来すケースです。新型コロナ感染症から回復後、外来で『まったくやる気が起きない』『また感染してしまうのではないかと怖くて仕方がない』『不安で眠れない』『何も食べたくない』といった精神的な不調を訴えるケースを経験しています」

■世界各国で報告

 コロナ後遺症として精神症状が多く見られることは、これまでも世界各国で報告されている。英オックスフォード大学などのチームが医学誌「ランセット」に発表した大規模研究調査によると、新型コロナウイルス感染症に罹患した人は、不安障害、うつ病、不眠症といった精神疾患の発症リスクを高めることが確認された。

 およそ6万2000人のコロナ感染者を含む米国人6900万人の健康記録を調査したところ、感染後に不安症、うつ病、不眠症だと初めて診断される人が17人に1人の割合に上ったという。オックスフォード大のポール・ハリソン教授は、「新型コロナウイルス感染症を生き延びた人はメンタルヘルス問題を抱えやすいという懸念を裏づける結果になった」と説明している。

 また、英国リハビリテーション医学会の「新型コロナウイルス感染症のリハビリテーションに関する報告」でも、主な合併症の中にうつ病、不安、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神症状が含まれている。

「新型コロナウイルス感染症の後遺症としてなぜ精神症状が表れるのかについては、まだはっきりしたことはわかっていません。『感染した』というショックや恐怖が強く記憶された影響や、感染によって起こるホルモン分泌の乱れが一因になっているという見方があります。個室やICU(集中治療室)などで隔離されたことによる不安やストレスによって引き起こされる『集中治療後症候群』のような状態を招いているという指摘もあります。また、感染によって生じた小さな血栓が脳の微細な血管に詰まって血流が悪化することでさまざまな精神症状が表れることも考えられます。われわれも手探りで情報を集め、専門的に対応可能な後遺症外来の開設を準備しています。悩まれている方がたくさんいることは疑いようがありません」(加藤院長)

 現状ではコロナ後遺症に対する治療法は確立されていないが、不安や抑うつ症状がある患者に対しては少量の抗うつ薬や漢方薬が使われたり、血流に問題があると考えられるケースでは抗凝固療法が試みられているという。

 まずは感染しないことが何よりも重要だが、不幸にも感染し、回復してからも精神症状があるなら「自分の気の持ちようだ」などと考えず、早めに受診したい。

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