今月、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、「中国からワクチンを購入し、東京大会の参加者に提供する」と発表した。中国製は日本では未承認で、米国・英国メーカー製のワクチンに比べて、副作用のリスクも未知数だ。問題はないのか――。
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【Q】中国製は欧米のワクチンと何が違うのか
【A】中国製ワクチンは製薬大手シノバック・バイオテック、シノファームの計2種類ある。
「ともにウイルスをホルマリンなどで殺して精製した不活化ワクチンです。インフルエンザワクチンなどで行われる伝統的な作製方法で、コロナウイルス自体が人工的に培養でき、作製法も簡単だから大量生産できるのです。ただし、免疫が1回だと体内に出現した抗体を回避するため、変異したコロナには効きにくくなるかもしれません。有効性の目安はインフルエンザワクチンより高くなると思います。重篤な副反応はないと考えますが、中国が副反応がないと発表している点は疑問です」
米デューク大によれば、中国製ワクチンの輸入または無償提供を受けている国・地域は26に上るという。ただし、他のワクチンに比べると臨床結果の数は少なく、推移を見守る必要はあるだろう。
この中国製ワクチンよりも専門家が懸念するのはロシア製ワクチンだ。今月23日にはプーチン大統領が接種したと報じられたが……。
【Q】ロシア製ワクチンはどうやって作製しているのか
【A】ロシアが昨年8月に自国で初めて承認、使用許可したワクチンは、モスクワのガマレヤ研究所が開発したウイルスベクターワクチンだ。
「ロシア製の『スプートニクV』は、ベクター(運び屋)として、アデノウイルス5型と26型の2種類を使っています。ともに生体内で増殖しないように弱毒化していますが、生きたウイルスなので、免疫原性(抗体を作る力)が強い。5型は一般的な風邪のウイルスを使用しており、すでに多くの人が抗体を持っています。十分な予防効果は認められないかもしれません。それで26型も使用するのでしょうが、承認、使用許可を公表した時点で、第3相試験(最終)を実施していなかったことが分かっています。臨床試験が不十分な点が不安ですね。それ以前に、第1相試験は18歳から60歳までの健康な成人38人を対象に3週間の間隔をあけて2回接種したと報告されていますが、あまりに例数が少ない。後付けに昨年11月に発表された第2相試験は1万6000人を対象にし、2回接種で有効率が92%としています。これも詳細なデータを公表していない。これで一般的に接種を始めるのは日本国内で考えると非科学的な話です」
【Q】国によって承認、使用許可のスピードが異なるのは?
【A】「通常は安全性と効果を検証するために3段階の臨床試験を行いますが、承認や使用許可はその国の専門機関が判断しますから、ステップをきちんと踏んでいるのかは国によります。EU、米国は日本と同一です。残念ながら、ロシアのように政府が国力を示すためにワクチンを利用することはあります。日本の厚労省は輸入の場合、米国ワクチン優先になります。米大手製薬会社ファイザーやモデルナのワクチンは、米食品医薬品局(FDA)の管理の下、ルールにのっとって厳密に審査されます。万が一の場合、国を揺るがすリスクを抱えますから、日本も米国に倣った審査基準になっているのです」