コロナ禍でも注目 最新医療テクノロジー

心臓病を検出するAIの開発 日本のメーカーは様子見の傾向

AIによる心電図の自動診断治療の流れ
AIによる心電図の自動診断治療の流れ(提供:慶應大学医学部)

 急性心筋梗塞が疑われる胸痛の患者の心電図から、その患者にカテーテル治療が必要かどうかを判定するAI(人工知能)を開発した慶応義塾大学医学部循環器内科助教の後藤信一氏。2019年4月からはハーバード大学医学部付属のブリガム・アンド・ウィメンズ病院に博士研究員(ポスドク)として留学中で、医療データからAIを作る研究を続けている。

 データサイエンスチームに所属している後藤氏は、プログラムを書くなど工学系のエンジニアと一緒に仕事をしているが、チーム内に5人ほどいる研究者のうち医師は後藤氏1人だけだという。現在、どんなAIの研究をしているのか聞いた。

「慶応大で開発したAIの延長線上で、『心アミロイドーシス』という心臓に異常なタンパク質が蓄積して心臓の壁が厚くなり、心機能障害を起こす病気の検出を研究しています。心電図の電位データを学習させたAIと、心エコーの動画データを学習させたAIの研究が終わり、間もなく論文が公表される予定です」 他にも対象とする病気を変えたり、学習させる医療データを変えたりして、いくつかのAIの開発を同時進行させているという。

 慶応大で開発した急性心筋梗塞の心電図判定AIもそうだが、医療AIを開発したからといって、それがすぐに実用化されるわけではない。多施設データを使った検証や医療機器の薬事承認を得なければ、臨床で使われることはない。それに医療機器メーカーが実用化に積極的に取り組むかどうかで、医療AIの普及は大きく異なってくる。

慶應義塾大学医学部循環器内科助教の後藤信一氏
慶應義塾大学医学部循環器内科助教の後藤信一氏(提供写真)

 また、AIに学習させる医療データ(個人情報)の扱いが厳しいことも、開発のしにくさの要因だ。その辺は米国と日本で何か違いはあるのか。

「日本と大きく違うのは、米国では『この項目を満たせば研究にデータを使ってもいい』という基準が明確なため、電子カルテのデータを使った研究を進めやすい点です。日本は規制が厳しいというよりも基準があいまいなため、研究者がどこをどこまでやれるのか分かりにくいのです」

 そのようなことからも日本の医療機器メーカーは、まだ“様子見”の傾向が強いという。それに比べて米国FDA(食品医薬品局)は、かなりハイペースで医療AIを認可している。現状では、欧米で先に臨床応用が進みやすいように思える。

 また、医療AIは「なぜその答えが出たのか分からない」という「ブラックボックス」を懸念する声がある。しかし、薬剤の治験(偽薬との比較)でも作用メカニズムの解明までは必ずしも求められていない。ランダムに振り分けた集団で比較して差があれば、承認・使用される。したがって、日本でも“医療の補助技術”として少しずつ受け入れられていくのではないかという。

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