名医が答える病気と体の悩み

「暗い部屋で本を読むと目が悪くなる」のは本当か?

眼科医の荒井宏幸氏
眼科医の荒井宏幸氏(提供写真)

「暗い場所で本を読むと近眼が進む」といわれることの医学的な根拠はハッキリしていません。ただし、昔の人が言う通り、暗い場所で文字を読むことをおすすめできない理由はあります。まず、人は近くのものを見ているときは目が中央に寄り、いわゆる“寄り目”状態になります。このとき、副交感神経が優位になり瞳孔が小さくなります。これらを総称して「近見反応」と呼びます。

 さらに瞳孔は、網膜に受ける光の強さによって拡大したり収縮したりする「対光反応」で光の量を調節しています。そのため、暗い場所でものを見ると瞳孔が大きくなります。

 つまり、暗い場所で本を読むとどうなるか――。暗闇で瞳孔が大きく開いた状態と、近見反応によって瞳孔が小さくなる状態の相反する動作を同時に行うことになるのです。

 これは目の自律神経系に負荷をかけて、疲れ目(眼精疲労)の原因となり、視力に影響を与える可能性があります。遺伝的要因以外の視力低下の場合、疲れ目も関係すると考えられるからです。

 目は水晶体をカメラのレンズのように調節し、ピントを合わせます。毛様体筋という筋肉が調節していますが、眼精疲労によってこの筋肉の動きが悪くなるとピントが合いづらくなり、長期的には視力の低下につながります。

 また、「暗い部屋で本を読む」シチュエーションは恐らくベッドなどで横になっていると思いますが、その際、眼球は自律神経によって外側に回転します。これを「回旋」と言います。寝た状態で本を読むときには、目の周りの筋肉(外眼筋)を使ってこの回旋を戻す必要があり、余計に疲れてしまいます。電車や車内で読書をするときにも同様に視線を固定するために外眼筋を使わなければならず、眼精疲労の原因となります。

 暗い場所で読書することは複数の要因から目に負荷を与えていることは確かといえるでしょう。

▽荒井宏幸(あらい・ひろゆき) 1990年防衛医科大学校卒業後、同大学付属病院眼科、93年自衛隊中央病院眼科および国家公務員共済組合三宿病院眼科、96年岡田眼科眼科部長、98年クイーンズアイクリニック院長、99年みなとみらいアイクリニック(旧南青山アイクリニック横浜)・主任執刀医、2010年からは医療法人社団ライト理事長も務める。

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