ワイン好きは白内障になりにくい? 米国眼科学会誌に論文掲載

ワインで白内障の発症を遅らせることができる!?
ワインで白内障の発症を遅らせることができる!?(C)日刊ゲンダイ

 お酒好きにちょっぴりうれしい話だ。お酒が白内障の発症を遅らせるかもしれない、というのだ。白内障とは、目の中のレンズに当たる水晶体が濁って見えにくくなる病気のこと。原因の多くは加齢によるもので、日本人の白内障を発症する確率は60代70%、70代90%、80代100%といわれる。その発症をお酒の力で遅らせられるとしたら、なんと素晴らしいことか。清澤眼科医院の清澤源弘院長に聞いた。

 話題になっているのは「アルコールと白内障の手術:観察分析で考慮すべき要素」という論文。

 著者はロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)眼科研究所に勤務する英国人、シャロン・Y・L・チュア博士らで、米国眼科学会の査読付き医学論文雑誌「オフサルモロジー誌」(2021年6月号)に掲載された。

「論文は2つの大規模コホートで、アルコール消費量とアルコール飲料の種類と白内障手術との関連を分析したものです」

 コホートとは、ある特定の疾患の起こる可能性がある要因・特性を考え、対象集団(コホート)を決め、その要因・特性を持った群(曝露群)と持たない群(非曝露群)に分けて、疾患の罹患や改善・悪化の有無などを一定期間観察し、その要因・特性と疾患との関連性を明らかにする研究方法。ランダム化比較試験に次いで信頼度の高い研究手段とされている。

「今回、分析の対象となったコホート研究は、英国の長期大規模バイオバンク研究『UKバイオバンク』(約47万人参加)と、欧州の栄養とがんの関連を調べる大規模コホートの『エピック・ノーフォーク研究』(約2・3万人参加)です。アルコール摂取量はバイオバンクがネットによる『自己申告』、エピック・ノーフォーク研究は『食物摂取頻度質問書』により確認。そのうえで、公的資料で確認された、左右どちらか片方でも白内障手術を受けた人を対象に分析しています。なお、2つのコホート研究対象者の中で、研究開始から1年以内や自己申告の白内障手術は除外しています。その結果、両研究でワインの飲用が白内障手術を減らすことが明らかになったのです」

 ただし、お酒を飲めば飲むほど白内障を除去してくれるわけではない。

 アルコール消費量の増加は「エピック・ノーフォーク研究」では白内障手術を受けるリスクの低下と関連していたが、「UKバイオバンク」ではU字形の関連が観察されたという。

「酒量としては英国政府が推奨する週最大14単位(アルコール度数13・5%のグラスワイン175ミリリットルなら約6杯)以内の人は、白内障手術を受ける可能性が低いとしています。サブ解析としてアルコールの種類が調べられていますが、ワインはビールやスピリッツ(蒸留酒)より有効であることが明らかにされています。ワインに含まれる抗酸化物質が白内障手術を受けるリスク低減の説明になるかもしれません」

■因果関係を判断するにはさらなる研究が必要

 実は同様の研究は2014年にも報告されていたが、当時は対象とする数が少なく「有意差なし」とされていた。2つの大規模研究で証明されたことはこの話が本当だと考えてよいのか?

「まだ明確ではありません。白内障手術のリスクの低下はお酒に付随した別の要因、たとえばおつまみなどが本当の原因であることも考えられます。その意味で、アルコール摂取と白内障手術のリスク低下の関連が、本質的な因果関係になるかどうか最終判断するには、さらなる研究が必要です」

 とはいえ、お酒好きにとっては、飲酒のメリットが増えるのはうれしい話。

「ただし注意したいのは、これは白内障に限った話だということです。お酒は心臓や血管の病気など多くのプラス効果がありますが、がんなどその他の病気にとってマイナスであることもわかっています。結果、トータルでは『お酒は飲まない方がいい』というのが別のコンセンサスです。飲むとしても少量にとどめるのが賢明です」

 それでは物足りない、というのはごもっとも。しかし、「酒は百薬の長」とうそぶいて毎晩のように酔っぱらい、それが許されていたのは遠い昔。いまは健康に配慮した飲み方が求められているということだ。

 コロナ流行の折、道路や公園飲みをする人も見受けられるが、健康のためには、飲みたい気持ちをぐっとこらえることも必要だ。

関連記事