間違った歯磨きは口の健康を悪化させる 感染対策でも重要

写真はイメージ
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 ウイルス感染対策では口の健康を維持することが大切だといわれ、いつも以上に「歯磨き」に取り組んでいる人も多いだろう。だが、正しくブラッシングしないと逆効果になりかねない。

 虫歯も歯周病も口腔内の細菌が引き起こす。そのため、しっかり歯磨きして細菌を徹底的に除去すれば虫歯も歯周病も防げるとして、「1日3回、食後3分以内に3分間」の歯磨きが常識とされてきた。歯と歯茎の間に斜め45度の角度でブラシを当て、毛先を隙間の奥まで入れてブラッシングする方法も推奨された。

 しかし、こうした歯磨きを続けていると、口腔内の環境は悪化していくという。小林歯科医院の小林友貴氏は言う。

「過剰に力を入れたブラッシングを1日に何回も行うと、むしろ歯周病を招く危険があります。歯を守るための組織である歯茎を後退させてしまうからです。歯と歯茎は、『接合上皮』と呼ばれる接着性のタンパク質でできている組織によって、くっついています。歯ブラシの毛先を歯と歯茎の間の奥まで突っ込んでブラッシングを繰り返すと、その接合上皮を破壊してしまうのです。すると歯と歯茎が剥がれて隙間=歯周ポケットが深くなり、細菌が停滞して歯周病になりやすい環境になってしまいます」

 接合上皮は有棘細胞層と基底細胞層からなる組織で、細胞と細胞の間には浸出液という血液成分が常に存在し、細菌などを“洗浄”して侵入を防いでいる。また、細胞の入れ替わりも早いことから「清潔域」とされ、汚れや細菌を除去するためにブラッシングする必要はない。

 つまり、歯と歯茎の間に毛先を当てて歯磨きしている人は、自分の手で細菌の侵入を助け、歯周病リスクを上げていることになる。

 間違った歯磨きは、「歯間乳頭」という組織も傷めてしまう。歯間乳頭は、隣り合った歯と歯の間の根元付近に三角形に入り込んでいる歯肉で、歯をしっかり支え、細菌の侵入を防ぐ働きをしている。

「歯間乳頭は組織が弱く炎症を起こして腫れやすいため、硬めの歯ブラシを使い強い力で歯茎を直接ブラッシングしたり、歯間ブラシを頻繁に使用していると、傷んでどんどん下に後退していきます。すると、歯と歯の隙間が広がって歯周病や虫歯になりやすくなってしまうのです。歯間乳頭は一度失うと再生させるのが難しいので、正しいケアが大切です」

■磨きすぎで自分の歯を失ってしまうケースも

 最近もこんなケースがあったという。「歯がグラグラしてきて飲食をするとしみる」と訴えて来院した60代の女性がいた。話を聞くと、口腔内の細菌を徹底除去すれば虫歯にはならないという考え方を信じ、30年間にわたって1日3回、1回30分から1時間かけてブラッシングを続けているという。

 口の中を診てみると、たしかに虫歯はできていない。しかし、歯茎が大きく後退して歯を支えきれない状態になっていて、全顎的に歯周病が進行していた。

 結局、歯をすべて抜いてインプラント治療をすることになった。間違った歯磨きを続けた結果、自分の歯を失うことになってしまったのだ。

 口の健康を維持するための歯磨きが逆効果にならないようにするには、正しくブラッシングすることだ。

「硬い歯ブラシを歯茎に当てて直接ブラッシングするのは絶対にやめましょう。歯だけを磨く分には問題ありませんが、歯茎に当たってしまうならいちばん柔らかいブラシを選んでください。また、電動歯ブラシは摩擦力が強力なので歯茎に当てて使うのは厳禁です。歯間ブラシは歯周病でなければ無理に使う必要はありません。歯の隙間が気になって使いたい場合は、無理にねじ込まなければ入らないような大きなサイズではなく、スカスカなくらい小さなサイズにしてください」

 歯の根元の部分はセメント質でできているため黄色っぽい色をしている。この部分が露出している人は歯茎が後退していると考えていい。また、歯と歯の間に「ブラックトライアングル」と呼ばれる黒い三角形の隙間ができている人は、歯間乳頭がなくなってきている。どちらもすぐに歯磨きを見直そう。

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