新型コロナ治療はここまで進んでいる 臨床にあたる医師に聞いた

変異株出現のインドでも懸命な治療が続いている
変異株出現のインドでも懸命な治療が続いている(C)ロイター

 新型コロナワクチンの接種が徐々に進む一方、変異株の出現などもあって再び感染拡大の傾向が続き、あらためて病床の逼迫が懸念されている。そんな状況下で必死に対応を続けている医療現場では、効果的な治療法が模索され、日々アップデートしている。新型コロナ患者を受け入れている東京・江戸川病院グループで臨床にあたっている伊勢川拓也医師(総合診療科部長)に聞いた。

 江戸川区では、新型コロナウイルスに感染していると診断され、39度近い高熱が5日以上続いていたり酸素飽和度が95%を下回っているような患者が入院の対象となっている。

 江戸川病院グループでは、入院患者にはまず採血検査やCT検査を実施し、肺結核やB型・C型肝炎がないことを確認してから、薬物治療が行われる。

「新型コロナウイルス感染症は発症してから10日ほどで体内に抗体がつくられ回復していきます。ですから、抗体ができるまで重症化を防ぐことが治療の基本になります。重症化につながるサイトカインの暴走をコントロールしながら炎症を抑えるため、リウマチ治療薬の『トシリズマブ(一般名)』を投与します。炎症性サイトカインの一種であるIL―6の作用を阻害して炎症を抑える薬で、高熱がある患者さんでも、投与から2~3時間で症状が消えて寛解するケースが少なくありません」

 さらに、下肺野(肺の下部)に炎症が認められ、低酸素血症を来している患者には、抗ウイルス薬の「レムデシビル」が同時に使われる。

「現在、入院が必要だと判断される患者さんはほとんどがレムデシビルが適用になる状態で、その場合はさらにリウマチ治療薬の『バリシチニブ(一般名)』も併用します。こちらは、トシリズマブとは作用機序が異なるJAK阻害薬と呼ばれる薬で、過剰な免疫反応を抑制する働きがあります。海外ではバリシチニブの使用によって新型コロナウイルス感染症の死亡者が35%減少したという報告があります」

 入院が必要な新型コロナ患者には、トシリズマブ、レムデシビル、バリシチニブが投与され、さらに血栓の形成によって起こる合併症を予防するため血液をサラサラにする抗凝固療薬も使われている。

■ステロイド薬を投与するタイミングが重要

「こうした薬物療法を基本的に5日間継続し、抗原定量検査でウイルス量が50(ピコグラム/ミリリットル)程度に減った段階で、ステロイド薬の『デカドロン』(デキサメタゾン)を投与します。免疫反応や炎症を抑制するためです。ステロイド薬については、重症化を抑えて死亡率を下げることが報告されていて、以前は治療の初期から使われていました。しかし、体内のウイルス量が多い初期にステロイド薬を投与するとウイルスが減るスピードが落ちてしまうことがわかっています。そのため、ウイルス量がある程度まで少なくなった段階で使う必要があるのです」

 厚労省では「発症から10日経過かつ症状軽快から72時間経過」を新型コロナ患者の退院基準にしている。発症から10日で抗体がつくられて発熱などの症状が治まっていくことがわかってきたためだ。

「しかし、初期にステロイド薬を使うとコロナウイルスが検出されなくなるまで15~20日ほどかかってしまって、なかなか退院できなかったり転院を余儀なくされたりで、自宅療養に切り替えられないケースが少なくありません。一方、ウイルス量が少なくなった段階でステロイド薬を投与すると、入院中は人工呼吸器が必要だった患者さんを含めてほぼ全員が発症から10日で寛解し、目立った後遺症なしに自宅へ退院されています」

 新型コロナの臨床現場では、有効な治療法がどんどん進化しているのだ。

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