新型コロナに感染した透析患者に有効な治療がわかってきた

透析患者へのレムデシビル投与における臨床経過(伊勢川拓也氏提供)
透析患者へのレムデシビル投与における臨床経過(伊勢川拓也氏提供)

 新型コロナウイルス感染症は、基礎疾患があると死亡リスクが上がることが知られている。中でも、腎機能が衰えて血液透析を受けている患者では極めて死亡率が高い。そんな透析患者においても、抗ウイルス薬「レムデシビル」が救いの一手になるかもしれない。新型コロナウイルス感染症の透析患者を受け入れている江戸川病院グループ(東京・江戸川区)で治療にあたる伊勢川拓也医師(総合診療科部長)に詳しく聞いた。

 日本透析医学会の資料によると、7月8日時点で新型コロナウイルスに感染した透析患者は2003人で、そのうち17.1%(343人)が亡くなっている。また、長期入院などの理由で転帰不明となっている患者が45.6%(912人)にのぼり、自宅復帰した透析患者は37.3%(748人)にとどまっている。

「透析患者は新型コロナウイルス感染症において死亡リスクが高くなる要因をいくつも抱えています。透析患者のおよそ69%が65歳以上と高齢であること、40%近くが糖尿病の治療中であること、透析患者は全般的な免疫機能が低下していることなどが死亡率を上げていると考えられています」

 そんな超ハイリスクな新型コロナウイルスに感染した透析患者に対しても、レムデシビルを使った治療法は有効なことがわかってきた。伊勢川医師は、日本で初めて血液透析を受けている新型コロナ患者にレムデシビルを投与して良好な結果を残し、日本透析医学会で発表している。

「レムデシビルは、入院が必要と判断されるような患者さんに対して投与すると、死亡率が低下することが報告されています。ただ、腎機能が低下している患者さんは、腎臓で薬の無毒化や排出が十分にできないため、レムデシビルに含まれる賦形剤などの成分が蓄積して有害になるリスクが指摘されていました。そのため、レムデシビルの投与は推奨されておらず、透析治療を受けている新型コロナ患者さんには対症療法を中心とした保存的治療しか行えていませんでした」

■レムデシビルを慎重に投与

 そんな状況の中、伊勢川医師のもとに糖尿病による腎機能障害で1年半前から血液透析を受けている新型コロナ患者が運ばれてきた。呼吸不全が進行していて肺にも炎症があり、人工呼吸器が必要な状態、いわゆる重症患者だったが、本人の希望で気管内挿管は行わないことになっていた。

 連日、透析除水を行って肺にたまった水を抜いても酸素飽和度は改善せず、入院3日後の抗原定量検査でも体内のウイルス量は高いままだった。

「このままでは亡くなる可能性が極めて高かったことから、体内のウイルス量を減らすことがわかっているレムデシビルの投与を検討したのです。海外では2つの良好な経過をとった症例が報告されていました。そこで、当院の院内倫理委員会に申請を行って承認を得たうえで、レムデシビルを製造している製薬会社にも問い合わせ、助言をもらいながら投与が決まりました」

 連日、血液透析を2時間行った後、レムデシビルを100ミリグラム投与し、透析除水も積極的に実施。投与開始からすぐに酸素飽和度は改善し、投与4日目にはウイルス量が検出感度以下にまで減った。採血検査でも副作用は認められず、10日目には労作時の低酸素血症も見られなくなり、無事に自宅退院できた。

「毎日2時間の血液透析を行うことで、なるべく腎臓に成分を蓄積させないようにしながら、レムデシビルの投与量も通常は初回200ミリグラムのところを100ミリグラムに減らしてリスクを低減させました。治療結果は良好で、退院時はご自身で歩いて帰宅されています」

 現在、江戸川病院グループでは、透析治療を受けている新型コロナ患者に対して以下の手順で治療を行っている。①入院後、2時間の血液濾過透析②初日のみ透析後にトシリズマブ400ミリグラムを1時間かけて投与③連日の2時間透析後に、初回を含めレムデシビル100ミリグラムを2時間かけて投与④心電図モニターと連日の採血で副作用の評価を行う。

「この手順に従ってこれまで13人の血液透析患者さんにレムデシビルを用いた治療を行い、1人は残念ながら亡くなられてしまいましたが、12人は速やかに寛解して自宅退院しています」

 学会での発表以降、透析患者にレムデシビルを使った治療を行う医療機関が増えているという。死亡率の低下が期待できそうだ。

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