病気を近づけない体のメンテナンス

脳<上>「ポジティブ・シンキング」で脳神経細胞への悪玉ストレスを減らす

写真はイメージ
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 脳の働きは40歳くらいをピークに、あとは下り坂で衰えていく。脳の動脈硬化が進んで血流が悪くなってくるのも、脳の神経細胞の減少が目立ってくるのもこの頃から。神経細胞は、放置していれば50代くらいまでに20代の約7割、80代には半分くらいまでに減ってしまう。

OK指体操で認知症はよくなる」(マキノ出版)の著者で、埼玉成恵会病院健康管理センター(埼玉県東松山市)の竹内東太郎センター長(脳神経外科医)が言う。

「なぜ40歳なのかといえば、この頃から『脳の疲労』が蓄積されやすくなるうえに、その疲れが取れにくくなってくるからです。このように、脳が疲れてくる最大の原因は『血流の低下、停滞』にあります。脳の血流量が減ってくれば、それだけ神経細胞のエネルギー源となる酸素や栄養(ブドウ糖)の供給が滞りがちになるからです」

 脳の病気の多くは血流の低下・悪化がベースにあるという。認知症も例外ではない。近年では血流障害がアルツハイマー病のリスクファクターになることを示唆する研究報告も多く見られる。

 2016年に発表されたカナダ・マギル大学の研究グループの報告では「数多くの因子の中で、アルツハイマー病の早期に現れた変化のひとつが血流で、すべての脳領域とすべての時点で異常が見られた」という。

 08年、米国・ノースウエスタン大学の研究グループの報告では「血流量の低下により、脳に十分なブドウ糖が供給されなくなった時、生化学的な反応が次々と起こり、粘着性の異常タンパク質をつくり出すプロセスが開始される」と発表している。

■決め手は脳の血流

 これらの報告のように、脳の血流の悪化が認知症の主要な因子のひとつであれば、それを防ぎ、改善することで病気の予防や改善にもつながる可能性があるわけだ。では、脳の血流低下に何が大きく影響しているのか。

「運動と並んで、私が認知症撃退対策で重視しているのは『ストレスとのつきあい方』です。ストレスは脳の血流を悪くするばかりでなく、自律神経系や内分泌系など、心身のさまざまな面で脳の機能低下にダイレクトに影響します。ただし、ストレスには体に悪い『悪玉ストレス』と、ほどよい緊張や刺激で心身に好影響をもたらす『善玉ストレス』があることを知っておいてもらいたいと思います」

「つらい」「苦痛」を感じる悪玉ストレスは、交感神経が活発に働いて脳の血管を収縮させて緊張させる作用がある。この状態が継続すると脳の動脈硬化が促進され、その結果、血流が悪化して認知症のリスクを高めることになる。

 一方、「やりがい」や「楽しみ」を感じる善玉ストレスは、副交感神経が活発に働いて血管を拡張し、体をリラックスさせる作用があるので脳も含めた血の巡りが良くなる。つまり、ストレスとのつきあい方で大事なのは、悪玉ストレスを減らし、善玉ストレスを増やすことになる。

 悪玉ストレスには、死別や災害など、人の力ではどうにもならないことも多くある。そんな場合でも、気持ちを奮い立たせて意識的に善玉ストレスを増やすようにすれば悪玉ストレスの影響を緩和できる。

 また、ストレスの中には、仕事上のノルマや運動の勝敗やレベルアップなど、善玉ストレスにも悪玉ストレスにもなり得るものも少なくない。どう対処すればいいのか。

■ひとつのことに没頭する

「そうした場合は、自らの力で善玉ストレスに変えることができます。大切なのは気持ちの持ちよう=気構えで、『ポジティブ・シンキング』です。仕事でも『ノルマを達成するぞ』『大きな契約を取るぞ』と前向きに頑張っている人は、善玉ストレスが優位になります。逆に『ノルマが達成できなかったらどうしよう』『契約が取れなかったら上司が怖い』などと、ネガティブなことばかりを考えていたら、悪玉ストレスが優位になります。たとえうまくいかなくても『ピンチはチャンス』と切り替え、再び前を向けば善玉ストレスが増えます」

 また、スポーツ、読書、ゲーム、プラモデル作り、日曜大工など、ひとつのことに集中して没頭することは悪玉ストレスを減らすことにつながる。

 実際にこの状態で脳波測定器を用いて脳波を観察すると、神経細胞が最適な状態に現れる「Fmシータ波」と呼ばれる脳波が確認できる。

 この波が多く出ている時は記憶が入りやすく、よいアイデアなどが浮かびやすかったりするという。

 次回は、脳の血流を増やす「OK指体操」のやり方を紹介する。

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