親の傾聴と共感が「8050問題」の解決につながる 専門家が指摘

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 80代(高齢)の親が50代(中年)の引きこもる子供を支える状況を表した8050問題は、この数年、注目を集める社会問題のひとつ。その解決の切り札として注目されているのが、親の「聴く力」だ。

「80(歳)の親が変われば、50(歳)の子でも立ち直る」と、その重要性を説くのは、英国で公認される家族療法の資格を持ち、その国内普及に携わる精神科医の最上悠氏。「8050 親の『傾聴』が子どもを救う」(マキノ出版)の著者でもある。

「『いい年をして、何を甘えたことを言っているのか』と批判する人も多いでしょう。しかし、健康な人には正論でも、心に行き詰まりを抱えた方にはそれが通用しません。最良の特効薬が、親の『傾聴』なのです」(最上氏=以下同)

 傾聴とは、相手の話にただひたすら耳を傾け、心で聴くこと。さえぎり・反論・評価をせず、最後まで言い切らせることだ。特に「家族の傾聴」は家族療法の中心的スキルであり、統合失調症やそううつ病の再発予防に高い医学的効果も実証されている。

「大人なのですから、まず本人自身に働きかけるのが本筋。けれど、現状100万人超といわれる我が国の引きこもりの半数以上が、社会とのつながりを持つ気すらないと答えている。こういった“本人拒否の壁”の場合の最終手段が“親だけ”に働きかけるアプローチで、それだけでも高い効果が期待されるのです」

 最上氏が重きを置くのは、親が子どもに対する「傾聴」と「共感」だ。前述の通り、親はただひたすら子どもの心に寄り添い、子どもの話に耳を傾け続ける。反論したくなることを子どもが言っても、黙って聴き、背後にある本音の気持ちを理解しようと努める。

 しかし、これはそう簡単ではない。長年こじれていたケースほど、子どもが親の変化に気付いても、すぐには信用しない。

「しかし何週間、何カ月間と粘り強く聴く姿勢を貫いていると、ある段階から子どもは安心し、本音の感情を徐々に出してきます。その積み重ねで『親に心から自分を受け入れてもらえた』と子どもが感じた時、問題行動は解決に向かっていく」

 子どもの年齢は関係ない。冒頭で触れたように8050問題においても、結果が出ている。

■本気の親の力には優秀なセラピストも及ばない

 なぜ傾聴と共感が、そのような効果をもたらすのか?

 多くの親子に共通して見られるのは、子どもが本音の気持ちを親に受け止めてもらうことを諦め、自ら感じることすら放棄したという過去だ。

「虐待歴などがあれば論外ですが、我が子を引きこもりにしようと育てる親など皆無ですから、親が原因という安易な決めつけは間違いです。残念なのは、手塩にかけて育てた我が子にも、この問題が生じてしまうという現実です。これは、親が思う以上に子どもが“繊細”過ぎた場合に多く見られます。顕微鏡でしか見えない我が子の世界観を、親が望遠鏡で必死にのぞこうとする、そんなすれ違いが積み重なっていた可能性があるのです」

 そのため、やり場のない子の衝動は二次的に膨れ上がり、強い怒りや不安、虚無といった感情や苦悩を生み出す。結果、現実逃避として依存や引きこもりが生じ、消耗して無気力になれば、中にはうつ病などの精神疾患を発症したりもする。

「そこから救い出せる最強の武器が、親。どんなに優秀なセラピストでもしょせんは他人です。本気の親力には及びません」

 傾聴・共感は決して親の「義務」ではないが、それがないと立ち直りの一歩を踏み出せない成人した子どももいっぱいいる。もしやと思ったなら、まずは子どもの話に黙って耳を傾けるところから始めようではないか。高齢の親の傾聴・共感で、中年になった子どもが長年の引きこもり生活を脱し、依存や暴言・暴力といった問題が消え、社会活動に参加できるようになったケースは決して少なくない。

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