心臓手術の名医が語るコロナ禍の治療最前線

なぜいま心臓病の検査が必要なのか? 早期発見・治療の重要性

ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡辺剛氏
ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡辺剛氏(提供写真)

 せっかく緊急事態宣言・まん延防止措置法等が解除されたのに病院で検診なんてまっぴら。そんな時間があれば久しく会っていなかった家族や仲間との時間を持ちたい。そんな中高年も多いだろう。しかし、この先、健康で楽しい時間を過ごしたければ心臓検診のために時間を割くことだ。心臓病の早期発見・治療の大切さをニューハート・ワタナベ国際病院総長に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

「心臓病は早期発見・早期治療できれば、軽症なら手術なしで症状を抑えられますし、それより悪くても手術で治せます。たとえば、静かにしていると何ともありませんが、一定のレベル以上体を動かすと痛みなど自覚症状が出る『労作性狭心症』という病気があります。この病気は検査をしないとわかりづらく、そのままにしておくと徐々に心臓の血管が狭くなり、休んでいても痛みの出る安静時狭心症へと進行します。そして最終的に心筋梗塞になってしまうのです。狭心症の段階なら手術しなくても済んだのに、見逃したばかりに心筋梗塞の手術が必要になるケースが少なくありません」

 中には手術はできても心臓の筋肉である心筋が死んでしまい、手術後に期待通りの働きがなく、亡くなるケースもあるというから恐ろしい。

「このように受診のタイミングを失うと突然死につながったり、心機能が一部停止の状態で生涯を過ごさざるを得ず、生活の質が大幅に低下する場合もあるのです」

■症状がないから病気じゃないは間違い

 若いころは心臓病など無縁と思う人も多い。しかし、心臓は1日約10万回、一生のうちに40億回以上拍動する。高齢になると誰でも心臓の機能は低下するし、障害も出やすくなる。「心臓弁」もそのひとつだ。4つに分かれた心臓の部屋を区切り血液の逆流を防ぐなどの役割を持つ。そこに異常が生じるのが心臓弁膜症だ。

「心臓弁膜症の場合も、心機能に問題がなく、弁の状態がそれほど悪くなければ、手術できれいに早く治る。放っておくと弁自体の機能が悪くなり、手術も複雑になる。手術は適応となれば早くやればやるほどそうしたデメリットがなくなります」

 大動脈瘤も検査でしかわからない心臓に関連した病気だ。

「心臓から全身に血液を送る動脈の一部がこぶのように膨らんだ状態を『大動脈瘤』と言います。こぶは、内膜、中膜、外膜の3種類で構成される血管の壁が裂けてそこに血液が流れ込んでできたりします。その原因は不明ですが、肥満や高血圧、糖尿病などと関連しているとも言われています。こぶができても痛くもかゆくもありません。大きくなって神経や他の臓器を圧迫すると自覚症状が出ることはありますが、そのこぶが破裂すると、痛みとショックで死に至ることもあります。だからこそ、大動脈瘤も早期発見と観察が必要です。経過観察している人にとって受診控えは非常に危険です」

 いま心臓血管の検診が必要なのは、こうしたリスクのある人だけではない。会社の健康診断や区の健診を受けていても、一定の年齢になったら脳と共に血管や心臓は専門病院でドックを受けた方がいいと渡辺総長は言う。

「先述したように心臓に関連した病気は軽症では症状がなく、自覚したときには重症化していることが多い。ですから早期発見には検査が必要なのですが、一般内科医が行う健康診断では難しい部分もあります。心臓を専門に診ている医師ならばX線写真に映る心臓の形や心電図のちょっとした波形の異常がわかるし、超音波検査で構造上の心臓の病気もわかる。聴診器で得られた血流の雑音から弁膜症疑いも診断できます。ですから60歳を越えたら、脳、心臓、血管は専門病院でドックを受けられた方がいいと思います」

■通信機器を使って遠隔アドバイスも可能に

 最近では、手近な通信機器で心臓の動きを見守ることができるようになっている。こうしたデバイスを活用するのもいい。

「たとえば、当院の無料ネット外来で、Apple Watch(アップルウォッチ)の心電図Appで記録されたデータの受付をしています。送っていただいた心電図のPDFファイルデータについて相談することができます。心臓は循環器内科で検査してもらい、異常があれば半年くらいのペースで診てもらうといいでしょう。中でも家族に心臓病の人がいる人、コレステロール、高血圧、糖尿病、尿酸値が高い人、ストレスが強い人、太っている人、たばこを吸っている人、睡眠時に息が止まっていたりいびきがひどいなど睡眠時無呼吸症候群の疑いがある人は、異常がなくても定期的に心臓を専門医に診てもらうべきだと思います」

 ちなみに心臓や循環器の状態を知るための一般的な検査は次の通り。

●心電図検査:心臓の電気的活動をグラフで記録。その波形から心臓病の種類と異常の程度を推測。
●胸部X線検査:X線撮影し、心臓の大きさや形などの異常を観察。
●運動負荷心電図:階段の上り下りなど心臓に負担がかかった状態での心電図。狭心症診断に有効。
●心臓超音波検査:心臓の動きや血流などから正常か否かを診断。
●ホルター心電図:携帯型心電図で生活中の心電図を記録。不整脈や狭心症の発症時を記録。
●脈波伝播速度(PWV):手と足への脈波の伝わり方を、動脈硬化の程度として数値で表したもの。血管の早期障害を調べる。
●足関節上腕血圧比(ABI):下肢動脈狭窄や閉塞の程度を表す指標。寝た状態で両腕、両足首の血圧を測定すると、足首の方がやや高い値になる。しかし、血管が詰まり気味になると、その部分の血圧は低くなる。足首の血圧と腕の血圧の比を求めれば血管の動脈硬化を知ることができる。
●血管エコー:頸動脈、腎動脈、四肢動脈の狭窄の有無の検査。


 一般的な検査で異常が見つかれば、以下の精密検査を受けることになる。

●冠動脈造影検査:カテーテルで造影剤を注入し、冠動脈の狭窄・閉塞の有無・程度を調査。
●心臓大血管CT検査:マルチスライスCT・造影剤を用いて血管を撮影し、その結果をコンピュータ処理し、狭窄血管部分を立体的3Dに再構築することで、狭窄部の情報をより正確に把握。
●冠動脈CT検査:静脈から造影剤を注入し、冠動脈を撮影しコンピュータで3D画像を作成。

渡辺剛

渡辺剛

1958年東京生まれ、ニューハート・ワタナベ国際病院総長。日本ロボット外科学会理事長、心臓血管外科医、ロボット外科医、心臓血管外科学者、心臓血管外科専門医、日本胸部外科学会指導医など。1984年金沢大学医学部卒業、ドイツ・ハノーファー医科大学心臓血管外科留学中に32歳で日本人最年少の心臓移植手術を執刀。1993年日本で始めて人工心肺を用いないOff-pump CABG(OPCAB)に成功。2000年に41歳で金沢大学外科学第一講座教授、2005年日本人として初めてのロボット心臓手術に成功、東京医科大学心臓外科 教授(兼任)、2011年国際医療福祉大学客員教授、2013年帝京大学客員教授。

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