緊急事態宣言が解除され、通勤時間帯の電車は混雑しています。オフィスや街に人出が戻りつつありますが、出社率を一定の割合にとどめる企業もあるようです。定着した在宅勤務は仕事と生活を両立するには効果的で、そういう企業は多様な従業員の働き方への対応を重視しているのかもしれません。
その在宅勤務を巡ってては、気になるデータもあります。20~50代の会社員を対象にしたネット調査によると、在宅勤務で座って仕事をする時間が「増えた」という人は8割。その人に延びた時間を聞いたところ、「1時間以上3時間未満」がダントツの43%。「3時間以上5時間未満」も22%で、「5時間以上」は17%でした。「1時間未満」は2割に満たないという結果で、座る時間の長さが見逃せません。
米テキサス大MDアンダーソンがんセンターの研究によると、座っている時間で3グループに分けて調査。最も短いグループを1とすると、最も長いグループのがん死亡率は82%アップしていました。特に男性では前立腺がん、女性では乳がんと卵巣がんのリスクが高くなります。
座っている時間が長ければ、運動が減り、肥満になりやすいし、糖尿病や高血圧などの生活習慣病も悪化しやすい。「世界のがんの約6%は、肥満と糖尿病が原因」とする研究もあるのです。特に男性で肝臓がんの23%、女性で子宮体がんの38%は肥満と糖尿病に起因するとされます。
コロナ禍の今、コロナ太りが話題です。当てはまる人は、がんにも糖尿病にもよくありません。
ただし、肥満の基準が異なるのが注意点です。WHOは、肥満の基準をBMI(体格指数=体重キロを身長メートルで2回割る)で30以上と定義。しかし日本の基準は25以上です。日本でもメタボ化が進むとはいえ、30以上はあまりいません。そこで、国立がん研究センターによる前向き研究「BMIと死亡リスク」が興味深い。特に男性です。
BMIで標準体重の23~24.9のがん死亡リスクを1とすると、25~26.9が最も低い0.9となりました。体重が低くなるほど、1を上回って上昇しBMI19未満は1.8に上るのです。肥満では、世界基準の30を超えるとやはりリスクが1.4にアップします。
つまり、日本人男性では、BMI25~27くらいの小太りががんはもちろん、全死亡も極小に。痩せているほど危ないといえます。
実は、前述の全世界の調査を、日本を含むアジアエリアで解析すると、がんの発症に対する影響は、糖尿病が肥満を上回りました。肥満をリスクとした世界の結果とは逆です。
日本では、世界に比べて痩せている糖尿病の人も多く、それも相まって“痩せリスク”を助長しているのかもしれません。こうした結果を踏まえると、何が分かるか?
たとえ体重が増えたとしても、せめてBMIが27を超えないように、ウオーキングやジョギングなど軽い有酸素運動を心掛けるとよいでしょう。それが、糖尿病の予防になり、ひいてはがん死リスクも下げてくれます。
Dr.中川 がんサバイバーの知恵