薬を飲んでいるのに血圧が下がらない…それなら「薬の選び方」に問題あり

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 薬を飲んでいる。生活習慣も気を付けている。でも、血圧コントロールが悪い──。こういう場合、薬が適切でない可能性も考えられる。血圧の薬は作用機序が異なるものがいくつかあり、主要なものとしては、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬などがある。

 狭心症や慢性腎臓病、心筋梗塞後、心不全といった「積極的適応」がない場合、第1選択として「ARBかACE阻害薬」「カルシウム拮抗薬」「利尿薬」のどれかが処方される。効果が不十分なら、2剤、3剤、さらにほかの種類の薬を追加……というように、薬を組み合わせていく。

「しかし、何を根拠に薬を選んでいるかというと、大きな根拠はないという医師が少なくない」

 こう話すのは、慶応義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科の伊藤裕教授。つまり、もしかしたら患者の状態に最適な薬ではない可能性がある。

 伊藤教授によれば、高血圧は2つのタイプに分けられるという。

「血管収縮タイプと血液増加タイプです。どちらに属するかで、合う作用機序の薬が異なります」

 高血圧に関係するホルモンに、レニン・アンジオテンシン系とナトリウム利尿ペプチド系がある。前者が血管収縮ホルモンで、後者が血管拡張ホルモン。この2つは拮抗関係にあり、ちょうどよいバランスを保っていればいいが、それが崩れると血圧が高くなる。

 たとえばストレスなどで交感神経が過敏になると、レニン・アンジオテンシン系の分泌が活発になり、血管が過度に収縮し血圧が上がる。

 体内の水分や塩分が足りないとレニン・アンジオテンシン系が活性化して血管が収縮し、塩分の吸収が促され、血圧が上がる。血液中の塩分が多いと、塩分濃度を下げるために血液量が増え、血圧が上がる。この時、レニン・アンジオテンシン系の分泌が抑制され、代わりにナトリウム利尿ペプチド系の分泌が活発化し、余分な塩分を排泄しようとする。

■血液検査で確認

「血管の収縮、血液量の増加は、どちらも血圧上昇の原因になります。血管収縮タイプの高血圧か、血液増加タイプの高血圧か。これは、検査で分類できます」

 血液検査でレニンという酵素の数値が高ければ血管収縮タイプで、ナトリウム利尿ペプチド系の一種であるANPの数値が高ければ血液増加タイプになる。

「血管収縮タイプには、レニン・アンジオテンシン系を阻害する薬(RAS阻害薬)やβ遮断薬、カルシウム拮抗剤といった作用機序の降圧薬が効きますし、血液増加タイプには利尿薬などが効きます。言い換えれば、血管収縮タイプには利尿薬はほとんど効きませんし、血液増加タイプにはRAS阻害薬の効き目は良くない」

 今年9月には、レニン・アンジオテンシン系の血管収縮、ナトリウム利尿ペプチド系の血管拡張双方に作用する新薬「エンレスト」が高血圧の治療薬として承認。新たな治療の選択肢ができた。

 高血圧専門医と専門以外の医師の診療内容の違いを調べた研究では、薬の使い方に差があるという結果が出ている。

 血液増加タイプに効く利尿薬は、副作用の恐れから、専門医以外の医師では処方数が少ないとの指摘もある。利尿薬も、医師の管理のもとに服用するなら、安全な薬だ。

 薬を飲んでいるのに血圧が目標値に達しないようなら、主治医に薬の変更を相談するか、あるいは思い切って高血圧治療の専門医を受診するのもひとつの手かもしれない。

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