ワクチン接種後の報告多数 注意すべき「胸痛」を見逃してはいけない

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 新型コロナワクチンを打った後、胸の痛みがしばらく続いた--。こんな報告が相次いでいる。胸痛は心臓病の代表的なサインといわれる。重篤な病気を見逃さないためにもどんな痛みに注意すべきなのかを知っておきたい。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

 厚労省が11月12日に公表した「医療機関からの副反応疑い報告状況」によると、ファイザー社のワクチン接種後(推定接種回数1億5545万4673回)に「胸痛」が起こった例は146件、「胸部不快感」が208件。モデルナ社(同3063万2541回)では、「胸痛」が54件、「胸部不快感」が36件となっている。同じく「製造販売業者からの副反応疑い報告状況」では、ファイザーが260件/309件、モデルナが30件/9件だった。

「接種後に胸痛を訴えて医療機関を受診する患者さんに、心電図、心臓エコー、血液検査などを行っても異常は見つからず、ほとんどが数日で自然に治まるといいます。そのため、実際には報告されていない件数が多いと推察します。ワクチン接種によってなぜ胸痛が起こるのかについて、はっきりしたことはわかっていません。現時点では、新型コロナのmRNAワクチンが体内で作り出すスパイクタンパク質が一因だろうと考えられています。作られたスパイクタンパク質に対する自己免疫反応や、サイトカインストームによって心筋が炎症を起こして痛みが出たり、スパイクタンパク質が神経系に複雑に作用している可能性もあります。ワクチンによって体内でスパイクタンパク質が作られるのは1週間前後といわれているので、仮に胸痛と関係があるとすれば、多くはその期間に痛みが治まると考えられます」

 胸痛が一時的なものであれば、過剰に心配する必要はない。ただ、厚労省が注意喚起しているように、心筋炎などの心臓トラブルが生じているケースもある。また、高血圧、高血糖、高脂血症といったリスクを抱えている人が、接種をきっかけに何らかの心臓病を発症し、胸痛がサインとして表れていることも考えられる。

■心筋梗塞や大動脈解離の可能性も

 ワクチン接種後だけではなく、日頃からどんな胸痛に気を付ければいいのか。

「胸部には、肺、胸膜、心臓、骨、神経、筋肉、消化器の一部が存在するため、痛みが生じる原因はさまざまです。その中でも、とりわけ注意すべきなのが心臓や大動脈が原因の胸痛です。命に関わる狭心症、心筋梗塞、大動脈解離のサインになっている場合があるのです。生活習慣病、喫煙、過剰なストレスなどが原因で動脈硬化が進むと、プラークなどで血管が狭くなって血液が流れにくくなります。すると、心臓が虚血(酸欠)状態になったり心筋組織が障害されることで発痛物質が作られ、痛みとして表れるのです」

 命に関わるような心臓病が原因の痛みには、いくつか特徴があるという。

「チクチクするような痛みが数分以内で治まる場合、心臓病の可能性は低いので心配ありません。また、突然ではなく徐々に起こったもの、体を動かした時だけ起こるもの、1~2本の指でさせる程度の狭い範囲の痛みも、筋肉や骨が原因である場合がほとんどです。注意すべきなのは『今までにない強い痛み』が15分以上続くケースです。体位に関係なく胸部や背部に生じる違和感やのどの灼熱感が30分以上続く場合、過去にあった胸痛が数分以内で繰り返したり、痛みがより長くなって15分以上続く場合は、病気が不安定化しています。心筋梗塞や大動脈解離を発症する可能性があるので、すぐに救急車を呼んでください」

 心筋梗塞の場合、「締め付けられるような激しい痛み」が上腹部、左肩、左腕、顎や歯にまで広がり、30分以上持続する。冷や汗、吐き気、息苦しさを伴うことが多い。詰まった血管を治療して30分以内に血流が再開すれば、心筋が死ぬ(壊死)のは最小限に食い止められる。3時間を超えると壊死する心筋が増えるため、1分でも早く治療を受けたい。

 大動脈解離では、背中やお腹に移動する「裂けるような痛み」が生じ、焼けつくような灼熱感、手のしびれなどを伴うケースもある。死亡リスクが高い上行大動脈の解離でも、発症後24時間以内に手術をすれば80%、48時間以内で50%が助かるというから、こちらも早い段階での処置が重要だ。

「狭心症は、圧迫されるような痛みが特徴で、長くても15分ぐらいで消失します。放置していると心筋梗塞につながるので、3分以上の胸痛が週に1回以上、10分以上の痛みが月に1回以上、2~15分の胸痛の頻度が増えたという場合は専門医の診察を受けましょう」

 しっかり判断して命を守りたい。

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