コロナ後遺症は感染で起こる「炎症」が関係 嗅覚障害のプロセスが判明

感染者は減ってきたが…
感染者は減ってきたが…(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの新規感染者が徐々に減少傾向となり、ピークアウトの兆しが見えてきた。とはいえ、感染が一気に下落するわけではなく、しばらくは高い水準を保つとみられているので、まだまだ気は抜けない。「感染してもオミクロン株は重症化しにくい」などと軽視する声も聞こえるが、甘く見ていると「後遺症」に苦しむことになりかねない。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

 今月初め、世界的な医学誌「セル」のオンライン版に、新型コロナ感染症の後遺症に関する研究論文が掲載された。国内外で多数の報告がある「嗅覚障害」の原因を明らかにした画期的な研究として注目されている。

 米国のコロンビア大学とニューヨーク大学の研究チームは、新型コロナ感染症で死亡した23人の嗅覚組織を遺伝免疫学的手法で調べ、ハムスターを新型コロナウイルスに感染させる実験も行った。その結果、①新型コロナウイルスは、鼻の嗅覚上皮組織にある嗅神経細胞にはほとんど感染せず、支持細胞に感染しやすい②感染したところには、Tリンパ球細胞やミクログリアなどさまざまな免疫細胞が集まり、大量のサイトカインを放出する(炎症反応)③これにより、においを探知する嗅覚受容体の形成に関与する遺伝子の発現が長期間抑えられ、嗅覚が失われたり、その機能が低下する──というプロセスが明らかになった。

「研究報告によると、感染3日でAdcy3という嗅覚生理に関係する遺伝子の発現が抑制され、ウイルスが消失した感染10日後でも回復しませんでした。これは、感染によって細胞核内の染色体上にある嗅覚受容体の区画破損など遺伝子の構造的異常が生じることが一因だと考えられています。同様の構造的異常はヒトの嗅覚組織でも認められました。新型コロナ患者の12%超に長期持続する嗅覚障害が残るのはこのためだと考えられます」

■脳にも影響する可能性

 今回、明らかになった新型コロナ患者に嗅覚障害が起こるプロセスは、ほかの後遺症にも当てはまる可能性がある。厚労省の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」では、代表的な罹患後症状=後遺症として「全身症状」「呼吸器症状」「精神・神経症状」「その他の症状」の4つに分類されている。中でも、倦怠感、記憶障害、集中力低下(ブレインフォグ)、不眠、頭痛、抑うつといった後遺症が、今回の研究と大きく関係しているのではないかとみられているのだ。

「今回の研究では、ウイルスに感染させたハムスターの血清を別のハムスターに注入することで嗅覚障害を起こす病態が生じました。このことから、新型コロナウイルスは感染した細胞から別の細胞に感染拡散するのではないと推察され、嗅覚障害など全身にさまざまな症状が出るのは、感染で起こる免疫細胞の反応によって放出された炎症性サイトカインが、血液などの体液を介して全身に広がり、細胞の遺伝子レベルの変化を生じさせるためという可能性が考えられます。嗅覚障害に関係する嗅神経細胞は、脳の多くの領域とつながっています。ですから、鼻腔で起こった免疫細胞の反応=炎症が脳にも影響を与え、嗅覚受容体の転写が元に戻るのを妨害する『細胞核記憶』のような現象が相まって、倦怠感、記憶障害、ブレインフォグ、抑うつといった後遺症に関係している可能性があるのです」

 国内外の報告では、オミクロン株は50~90%程度が無症状か軽症とされ、米ロサンゼルスの感染者約7万人を調べた研究では、デルタ株に比べて症状が出る人は50%程度、ICU入院は74%少なく、死亡は91%少ないと報告されている。

 しかし、仮に重症化しなくても長く続く後遺症に悩んでいる人は増えている。

「体内からウイルスが消失して感染の症状が治っても、なんらかの症状が10日以上続く場合は、速やかに医療機関を受診することを勧めます。そして何よりも感染しないための対策をあらためて徹底することが大切です」

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