病気を近づけない体のメンテナンス

歯(上)虫歯の新たなメカニズムに対応した予防法 歯科医が指南

写真はイメージ
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 虫歯は、口の中にいる細菌(ミュータンス菌)が食べカスをエサにして酸をつくり出し、歯を溶かしたり、歯に穴を開けたりする疾患とされている。そのため予防には、食後に歯を磨いて口の中をきれいにしておくことが大切というのが一般的な常識になっている。

 しかし、これだけが虫歯の原因ではないという考えがある。実際の臨床現場では、内部から表面へと進行するタイプの虫歯が数多く見られるからだ。では、このタイプの虫歯はどのようにして進行するのか。「100年歯がなくならない生き方」(三笠書房)の著者で、「小峰歯科医院」(埼玉県比企郡)の小峰一雄院長が言う。

「そのメカニズムを解明したのが、米国ロマ・リンダ大学のラルフ・スタインマン博士です。博士は虫歯の原因として『象牙質の液体移送システム(DFT)』が大きく関係していると述べています。簡単に説明すると、脳からの指令によって体内に流れている物質が歯の歯髄(神経)を通り、やがて歯の外に流れ出てくる現象のことです」

 この現象を実証する有名な実験がある。ネズミの腹部に、ある物質を注射し、それがどう体内を巡るかを観察した。

 すると注射後、物質はわずか6分で歯のエナメル質と象牙質の境の部分に到達。それからおよそ1時間以内に、歯の表面にしみ出てきたという。

 この実験には続きがあり、DFTが「逆流」することも分かっている。つまり、口内に存在する数億もの細菌が、歯を溶かすことなく侵入し、歯の内部で虫歯をつくるのだ。スタインマン博士は、この逆流は①砂糖②ストレス③運動不足④ビタミン・ミネラル不足⑤薬剤の5つの原因で起こると述べている。

 このように毎日きちんと歯磨きをして、表面をきれいにしていたとしても、DFTの逆流を起こす5つの原因を絶つように注意しなければ、虫歯になってしまうのだ。

■急激な血糖値の上昇を抑制することが重要

 砂糖が歯の表面にくっついて、それをエサにする細菌が繁殖することで虫歯になることは理解(従来の考え)できる。では、「砂糖」と「DFTの逆流」にはどんな関係があるのか。

「砂糖をたくさん取ると血糖値スパイク(血糖値の急激な変動)が起こります。その結果、DFTが逆流する。このとき口内の細菌が、歯の内部に吸い込まれることで虫歯になる。砂糖の摂取という原因と、虫歯になるという結果は同じですが、その間のメカニズムが違うのです」

 人は砂糖を取ると、血液中に含まれるブドウ糖の量が増え、血糖値が上がる。そのとき体は、インスリンを分泌して上がった血糖値を下げるように働く。これは自然な人体の反応で、血糖値の上下がなだらかな曲線を描いていれば問題ない。しかし、血糖値の上下が急激な角度を描くのが「血糖値スパイク」だ。

 血糖値スパイクは血管内壁を傷つけるので、糖尿病、動脈硬化、虚血性心疾患、脳血管疾患、関節性リウマチなどの発症にもつながる。

 DFTの逆流を防いで虫歯を予防することは、さまざまな病気の予防にもなる。そのためにも、炭酸飲料、菓子、菓子パンなどの砂糖を大量に使った加工品は極力控えるようにした方がいいという。

 歯周病の発症も食事と関係がある。歯周病を防ぐには「炭水化物の摂取を極力減らすこと」という。多く含むのは「白米」「パン」「麺類」「サツマイモ」「トウモロコシ」「砂糖」といった食品だ。

「炭水化物を取ると、1時間以内に胃や小腸でブドウ糖に分解されます。ブドウ糖の一部はエネルギー源として使われますが、余った分は脂肪細胞に取り込まれ、脂肪細胞を大きくします。巨大化した脂肪細胞からは、体に炎症を起こす作用がある悪玉アディポサイトカインが分泌され、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化などを引き起こします。これが歯茎に作用すると、歯周病を引き起こすのです。歯周病も生活習慣病なのです」

 一日を振り返って、朝にパン、昼に麺類、夜に白いご飯を食べているというケースなら、完全に炭水化物の取り過ぎ。また、食後30分たってから、爪ようじで歯の表面または歯と歯の間を掃除してみる。もし、汚れがつくようだったら、炭水化物の食べ過ぎという。

 次回は、歯と体を健康にさせる生活習慣を紹介してもらう。

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