Dr.中川 がんサバイバーの知恵

直腸がんで手術6回の坂本龍一さんを深掘り「一がん息災」の重要性

坂本龍一
坂本龍一(C)日刊ゲンダイ

 YMO以来のファンとして衝撃を受けました。教授の愛称で知られるミュージシャンの坂本龍一さん(70)が、ステージ4の直腸がんであることを公表したことです。それが見つかった経緯もショッキングで、国内外で話題を呼んでいます。

 病状を明かしたのは、文芸誌「新潮」です。新連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」につづっています。

 昨年1月、直腸がんとその転移巣の手術を受けたことを公表していました。意味深な連載タイトルが象徴するように、病状はもっと深刻だったのです。今回は、このことを深掘りしましょう。

 連載によると、2020年6月に米NYで直腸がんと診断。化学放射線療法で治療したとのこと。がんは消えず、日本での仕事で帰国し、ついでに人間ドックを受けたところ、直腸がんは肝臓やリンパ節に転移していたそうです。

 そのとき、化学放射線療法を終えて3カ月。NYの病院で転移の事実が告げられなかったことに不信感を抱きます。見落としていたのか、何らかの理由でぼくに黙っていたのか。詳細が分からないので推測ですが、直腸がん(大腸がん)はステージ4で転移があっても、転移巣の数が少なければ積極的に切除します。ステージ4の大腸がんを4度の手術で克服した鳥越俊太郎さんは典型でしょう。転移がなければ当然手術で、NYの病院が見落としていれば、すぐに手術をしていたと思われます。

 そう考えると、NYの病院が最初に化学放射線療法を選択したのは、手術に向けた補助的な治療ではないでしょうか。つまり、最初の治療で腫瘍を小さく、かつ少なくしてから手術するシナリオだったのでしょう。逆にいうと、診断時にそれだけ進行していたと思われます。

 結局、21年1月に直腸の原発巣、肝臓とリンパ節の転移巣を切除。さらに両肺の転移巣などを含め、6回の手術を受けたといいます。

 直腸がんの診断は、中咽頭がんが発覚してから6年後。その中咽頭がんは放射線治療で寛解したのは周知の通りですが、がんの治療は寛解後も数カ月おきに検査をして、再発の有無をチェックするのが一般的です。

 検査を受けていなかったのでしょうか。もう一つ気になるのが、この一節です。

「40歳を過ぎる頃までは健康のことなんて一切考えず、野獣のような生活をしてきました(中略)西洋医療の薬を日常的に飲み始めたのは、60代で最初のガンが発覚してからです」

 西洋医学の力を借りるまでは整体やマクロビオティックに頼っていたとのこと。マクロビで思い出されるのは、すい臓がんで亡くなったスティーブ・ジョブズさんで、がんとの関係においてはマイナスです。

 西洋医学や予防医学はバカにできません。中咽頭がん治療後のフォロー検査で早期に見つけていれば……。「一がん息災」を強く思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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