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新型コロナワクチンの種類で心筋炎のリスクは異なる?

心筋炎・心膜炎のリスクは高齢者よりも若年者で高いことは知られていたが
心筋炎・心膜炎のリスクは高齢者よりも若年者で高いことは知られていたが(C)ロイター

 心臓の筋肉に炎症が起きてしまった状態を心筋炎、心臓の筋肉の周りを覆っている膜に炎症が起きてしまった状態を心膜炎と呼びます。頻度としてはまれですが、新型コロナウイルスワクチンの接種後に、心筋炎や心膜炎を疑う事例が報告されています。

 新型コロナウイルスワクチンによる心筋炎・心膜炎のリスクは、初回接種よりも2回目の接種で、また高齢者よりも若年者で高いことが知られていました。しかし、ワクチンの種類によってリスクが異なるのかについては、よく分かっていませんでした。そんな中、新型コロナウイルスワクチンと心筋炎・心膜炎の関連性を検討した最新の研究論文が、世界的にも有名な医学誌「Lancet」の電子版に、2022年6月11日付で掲載されました。

 米国の医療データベースを用いたこの研究では、新型コロナウイルスワクチンを接種した18~64歳の1514万8369人が対象となりました。対象者に接種されたファイザー/ビオンテック社製のワクチン1691万2716回分、モデルナ社製のワクチン1063万1554回分と、心筋炎・心膜炎の関連性が検討されています。

 解析の結果、ワクチン接種後に心筋炎・心膜炎のわずかな増加が認められ、その発症率は18~25歳に対する2回目の接種で最も高いことが分かりました。10万人当たりの発症率は、ファイザー/ビオンテック社製のワクチンで1.71件、モデルナ社製のワクチンで2.17件と、統計学的に有意な差はないものの、モデルナ社製ワクチンで25%高い傾向にありました。

 論文著者らは、心筋炎・心膜炎のリスクに関して「ファイザー/ビオンテック社製のワクチンとモデルナ社製のワクチンに統計的に有意な差を認めないものの、差が存在する可能性を否定すべきではない」と結論しています。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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