過剰な“コロナ恐怖”が引き起こす医療トラブル 在宅の現場でも…

異常事態が常態化している
異常事態が常態化している(C)日刊ゲンダイ

 先日、兵庫県尼崎市において交通事故で救急搬送されたケガ人が搬送途中でコロナ陽性と判明。救急車で事故現場に戻された“事件”が発生した。その後、ケガ人の父親が別の救急車に乗せたが、10カ所目の病院に搬送されたときにはすでに数時間経過していたという。普段なら考えられない事態だが、新型コロナ禍ではこうした異常事態が常態化している。1人当たりの病床が世界でも飛び抜けて多い日本で、なぜこんなことが起きるのか? 年間200人超の看取りを行う「しろひげ在宅診療所」(東京・江戸川区)の山中光茂院長に聞いた。

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 新型コロナが流行して以降、地域に根ざした外来診療所では、「発熱のある患者の診察は受けられません」との張り紙をよく見かける。外来診察では発熱だけでコロナ検査を待つまでもなく、それ以上の診察を拒否し、他の病院受診を勧奨する。そんな環境が続いている。

「私たちのクリニックも例に漏れず、今年の5月までは『明らかなコロナ陽性患者については緊急往診をしない』というルールにしており、地域の介護職種からは当然のごとく大きな批判を受けました。それでも、そうせざるを得ない事情があったのです。コロナ禍でコロナ以外の重症者に対する入院病床がまったく確保できない中で、1000人以上の重症患者を在宅でフォローする当院は実質的な『1000床の重症病床』であり、コロナによる診療ストップとなると、当院の患者を受けてもらえる医療機関がどこにもなかったからです」

 むろん所属する医療従事者らが「コロナ感染を怖がるから」が理由ではない。これまでもインフルエンザが医療機関や介護施設に蔓延して、組織が機能不全になることもあった。しかし、感染して40度以上の発熱リスクがあったにせよ、過度に医療従事者や介護者らが恐れることはなかったという。

「今、医療従事者や介護従事者がコロナ感染を恐れるのは、『感染者』『濃厚接触者』というレッテルが貼られることです。長期間、医療や介護に携われなくなり、自分たちが関わることで救える命が失われることを何より恐れているのです」

■医療従事者の負担軽減が必要

 その結果、在宅医療の現場でも患者への医療や介護が萎縮し、「明らかなコロナ陽性患者については緊急往診をしない」というバカげた対応になったのだという。

「現場を知らない感染症の専門家や政治評論家が、『コロナ病床を増やすべき』『病床使用率が逼迫している』と騒ぎ立てていましたが、病床使用率が高まり医療が逼迫したのは、コロナが他の病気と比べて特別重症化する疾患だからではありません。現に世界の多くの国では『ウィズコロナ』政策として、重症者以外は可能な限りすべてが通常の社会生活が送れるような対応になっています。病床が常に逼迫するという状態でもありません。1人当たりの病床が世界でも飛び抜けて多い日本で、病床利用率が異常に高まり、医療が危機的な状態になったのは、コロナを『特別な感染症』『特別な隔離疾患』とし、それに関わる医療従事者の負担を大きくしているからです」

 自宅で自立した生活が送れる呼吸状態で、一定期間の投薬や安静で治る人も「家族からの隔離目的」という名目で入院に誘導されているケースもある。

「実際、在宅診療の現場では、『コロナ患者には介入できない』と言う医療機関、訪問看護、ヘルパーなどがいます。そのため本来なら十分に自宅で対応できる人でも、コロナとわかると誰も介護介入ができず、結果として無駄に入院や救急搬送となってしまうのです」

 今回のコロナ禍では、コロナそのもので命を失うケースは極めて少ない。それは、感染者全体から見る重症化率や死亡率の低さから明らかである。もちろん、全国的には実際に感染して重症化して家族を失った人もいれば、感染による後遺症に苦しんでいる人もいる。その人たちからすると「コロナを甘くみるな」と言いたくなるのは当然だろう。

 しかし、それは新型コロナに限らずすべての病気に言えることだ。「風邪は万病のもと」と言うように、コロナを軽視しているわけでもないし、しっかりとした感染対策や重症化に応じた治療への対応をすることは当然である。

「しかし、実態としてはコロナによって命を失うリスクよりも、コロナ感染という社会的な影響から、これまで守られてきた命が失われ続けてきた現実の方があまりにも重いのではないのでしょうか」

 コロナもコロナ以外も「公平に守られる」社会のシステムであってほしいと願うばかりである。

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