新型コロナは「歯肉炎」にも関係している? いつもの歯磨きで歯茎が血だらけに…

腫れや痛みがあるときは柔らかい歯ブラシやスポンジブラシで
腫れや痛みがあるときは柔らかい歯ブラシやスポンジブラシで

 新型コロナウイルスの第7波はいまだ収束しない。新規感染者数は徐々に減ってはいるものの、16日は新規感染者が全国で16万6205人と、高止まりが続いている。主流のオミクロン株派生型「BA.5」は、重症化リスクが低いと指摘されている。しかし、重症でなくても39度を超える高熱や激しい喉の痛みはそれだけでつらいもの。さらに、気になるのは歯茎の腫れや痛み、出血を訴える人もいることだ。小林歯科医院院長の小林友貴氏に聞いた。

 7月末に新型コロナウイルスに感染したMさん(50歳・男性)は、39度前後の高熱が2日ほど続いたが、咳や息苦しさなどの呼吸器症状、喉痛、頭痛、胸痛といった他の症状は見られず、10日間の自宅療養となった。

 発症3日目には発熱も落ち着いてきて、もう大丈夫だろうと一息ついた頃に“異変”が起こった。朝起きていつものように歯磨きをしているとき、歯茎に強い痛みを感じたのだ。さらに、普段と同じくらいの力加減でブラッシングしていたのに歯茎がただれ、吐き出した歯磨き剤は出血で赤く染まっている。口をゆすぐと歯茎がしみてズキズキとした痛みがしばらく続いた。

 平熱に戻ってからも、歯磨きをするたびに歯茎の痛みと出血を繰り返し、いつもより弱めに恐る恐るブラッシングしてもそれほど改善は見られない。歯周病も疑ったが、結局、1週間ほどで歯茎の痛みと出血は治まった。

 コロナ感染と口腔内の“異常”は関係あるのか。

「海外では、新型コロナと口腔疾患について報告された論文があります。それによると、新型コロナウイルス感染症では、歯周病変を含むさまざまな口腔内症状が現れる患者がいて、重度の口臭、浮腫と紅斑、歯間乳頭の壊死、歯肉の自然出血を呈する壊死性歯肉炎が認められると報告されています。また、口腔内病変の消失はウイルスの消失と並行して起こることから何らかの関連が示唆され、新型コロナウイルスと口腔内に発現するウイルス受容体のACE2との相互作用は、口腔上皮細胞の機能を変化させる可能性があり、潰瘍性歯肉病変の出現を説明するメカニズムのひとつと考えられるとしています。ただ、まだ症例報告数が少ないため、コロナ感染がこれらの口腔症状に直接関係しているのかははっきりせず、ほかのウイルスの複合感染、免疫の低下、治療に使う薬剤の副作用の可能性も指摘しています」

 コロナ患者で報告されている「歯間乳頭の壊死」や「壊死性歯肉炎」は、歯と歯の間などの歯肉に痛みや腫れが生じて壊死してしまう病変だ。歯肉が壊死すると潰瘍が形成されるが、潰瘍を覆う偽膜は剥がれやすいため、飲食や歯磨きによって潰瘍が露出して、出血や痛みが起こりやすくなる。冒頭で紹介したMさんの症状とも合致する。

「壊死性歯肉炎は、口腔内にすんでいる細菌のいくつかが過剰に増殖するなどして感染と炎症を起こすことが原因で生じます。われわれの口腔内には400種類近い細菌が存在していて、その数は100億を超えるといわれています。それらのバランスが、ウイルス感染などによる口腔環境の変化によって崩れると、発症しやすくなるのです。多くは軽症で5日ほどで改善しますが、重症化すると発熱やリンパ節の腫れといった全身症状が現れるケースもあります」

■柔らかい歯ブラシを歯茎に当てないように使う

 コロナとの関連はともかく、こうした歯肉炎をはじめ、歯茎に腫れ、痛み、出血がある場合でも、ケアをおろそかにして口腔内の衛生環境を悪化させるわけにはいかない。歯肉炎が歯周病につながったり、歯茎の傷から口腔内細菌が侵入して全身を巡りさまざまな病気の原因になるリスクもあるからだ。

「歯茎に腫れや痛みがあって出血しやすい状態の場合、歯磨きには柔らかい歯ブラシやスポンジブラシを使ってもらいます。ブラッシングでは、歯ブラシの毛先を斜めにすると歯茎に当たってしまうので、歯面に直角に当てて弱めに歯だけを磨くようにしてください。また、歯茎が傷ついているならその周辺はブラッシングを避け、『コンクールF』などのグルコン酸クロルヘキシジンが含まれた低刺激のうがい薬で口腔内をゆすぐのがいいでしょう。うがい薬をしみ込ませた綿棒で、歯面だけをケアする方法もあります」

 口腔内の環境が悪化すると感染症にかかりやすくなるという報告もある。どんな状況でも、口腔ケアにはしっかり取り組みたい。

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