新たな軽症者向け「新型コロナ飲み薬」の承認が待たれる理由

コロナと共存していくために「飲み薬」の承認が待たれる
コロナと共存していくために「飲み薬」の承認が待たれる(C)日刊ゲンダイ

 7月20日、塩野義製薬の飲み薬「ゾコーバ」の緊急承認が見送られ継続審議となった。承認されていれば、国内製薬会社が開発した初の経口薬となっていた。呼吸器専門医である池袋大谷クリニックの大谷義夫院長に話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 現在、軽症から中等症対象の経口薬は、昨年12月に特例承認されたMSD社の「ラゲブリオ」と、今年2月特例承認のファイザー社の「パキロビッド」がある。

「重症化リスク因子を有する患者さんが対象の抗ウイルス薬です」

 使用条件は多少異なるが、大きな違いは、ラゲブリオは催奇形性(妊婦が使うと胎児に奇形が生じる危険)があるため、妊娠または妊娠している可能性がない人が対象。

「パキロビッドは薬物相互作用があり併用禁忌・注意の薬が多く、腎機能障害では使用禁忌や減量となります」

 コロナ感染拡大初期から陽性患者の治療をし続けている大谷院長にとって、ゾコーバ承認見送りは非常に残念な結果だった。すでに軽症者も対象の経口薬が2種類あるのになぜか?

【臨床試験の対象者がワクチン未接種者】

「現在総人口の64%がワクチン3回接種済み(8月18日現在)で、重症化リスクのある高齢者などはすでに4回目のワクチン接種が進んでいます」

 しかし、承認済みの薬はどちらもワクチン未接種者が対象。しかも、圧倒的によく使われているラゲブリオは、重症化低下率が約30%だ。

「『(30%なら)接種済みなので薬はいい』と言う方が少なくないのです」

【腎機能の検査が必要】

 ラゲブリオは腎機能の検査は不要だが、重症化低下率は30%。もう一つのパキロビッドは重症化低下率90%。ワクチン接種済みの人も「パキロビッドなら」となることもあるが、腎機能データが必要だ。

「最近の検査結果があればパキロビッドの減量の必要性に関して判断できます。ところが自身の健診のデータを保管している方も少ないのです」

 となると血液検査で腎機能評価項目GFRを調べなくてはならないが、すぐに結果は出ず、大学病院で早くて1時間後、クリニックなら翌日。

「抗ウイルス薬は早く使えば使うほどいいのにそれができない。大学病院や総合病院に勤務する仲間の医師は『かかりつけ患者か入院患者にしか使っていない』と言いますし、開業医からは『腎機能検査の結果が出るまで待っていられない』と聞きます。当院でも処方例は26日時点でラゲブリオ130例に対し、パキロビッド9例です。9例中5例は腎機能GFRの結果から、薬の減量が必要でした」

 パキロビッドは併用禁忌・注意の薬が多いところが、処方のしづらさであるとしばしば指摘されるが--。

「すでに飲んでる薬が併用禁忌または注意かの確認は臨床医なら難しくない。むしろ、すぐに結果が出ない腎機能低下確認の方がネックになる」

 今回、塩野義製薬のゾコーバが緊急承認見送りになったのは、「12症状の改善状況で有意差が出なかった」「催奇形性リスクや、多くの薬物相互作用がある」といった見解が示されたからだ。

「コロナの12症状はデルタ株流行時に設定されたもので消化器症状を含んでいます。現在流行のオミクロン株は消化器症状はほぼなく、有意差が出ないのは当然。一方、主の症状である呼吸器症状と発熱に関しては有意な改善を認めている。BA.5株で咳、咽頭痛、発熱、鼻汁・鼻閉、息切れに苦しんでいる患者さんに、すぐにでも処方したかったのですが……」

 催奇形性リスクはラゲブリオで、薬物相互作用はパキロビッドで、指摘されている。ゾコーバだけではない。

「ゾコーバにはウイルス減少効果があり、非高齢者や基礎疾患のない方にも使用可能であり、家庭内感染のリスクを低下させる可能性もあるとの指摘も出ています」

 行動制限なしの今、コロナと共存していくために、ウイルス減少効果のあるゾコーバへの期待は、陽性患者の治療を実際に行っている医師を中心に大きい。今後の展開に注目だ。

関連記事