注目の「機能性表示食品」フードロスの解決も期待できる

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日本応用糖質科学会の発表で見えてきた

 スーパーやコンビニでよく見かける「機能性表示食品」。しかし、その意味をご存じだろうか?

「栄養」「おいしさ」に次ぐ食品第3の機能である「健康の維持及び増進に役立つ」という機能性を表示した食品のことで、販売企業が安全性などとともに確認した「科学的な根拠に基づいた機能性を事業者の責任において表示した食品」のことを言う。近年は糖質制限ダイエットが流行する一方で、糖質の必要性・重要性も再認識され、糖質を用いた機能性表示食品開発が盛んである。今後、糖質を基盤にしたどのような商品が登場するのだろうか?

 そのヒントになるのが8月31日~9月2日に、東京で開催された「日本応用糖質科学会2022年度大会」(大会実行委員長・平尾和子愛国学園短期大学学長)である。同学会は澱粉工業学会として設立され、今年で創立70年目を迎えた。現在は、澱粉をはじめとしたさまざまな糖質や関連酵素の基礎・応用研究を通じ、機能性食品の開発などにも寄与している。同会会長で日本大学生物資源科学部の西尾俊幸教授が言う。

「糖質は、体の中で分解・代謝されてエネルギー物質に生まれ変わり、そのエネルギーが私たちの脳や体を動かします。つまり、糖質はエネルギー源として必要不可欠な存在なのです」

 糖質は、最小構成単位の「単糖」、単糖が2~10個結合した「オリゴ糖」、数多くの単糖が結合した「多糖」に分類できる。

「澱粉は多糖の代表的な存在で、植物が光合成によって作る単糖を連結して巨大な分子として蓄えた貯蔵多糖です。私たちはその澱粉の基礎研究を続けながら、それが何に応用できるかを考えています。たとえば、ヒトの小腸ではあまり分解されないため、大腸まで運ばれる性質を持つ難消化性澱粉(レジスタントスターチ)は、腸内環境を整えることで健康の維持・増進に役立つ多糖として注目されています。また、糖質を加工するのに適した酵素の基礎研究と応用も、学会の重要な研究テーマのひとつになっています」(西尾教授)

 すでに、同学会の研究成果を使った嚥下しやすい高齢者向けの食品や、糖尿病患者向け食品の開発、食後の血糖値上昇を抑制する柿ポリフェノールの研究、血液改善の研究で得た自律神経の知識を用いたストレス低減を可能にする食品の開発なども行われている。

 同学会から生まれた代表的食品といえば「機能性オリゴ糖」である。

「ヒト腸内の細菌叢(腸内フローラ)が人間の心と身体の多くの病気に関わっています。そのため、健康維持に重要な腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整えるプレバイオティクスの研究が盛んです。その代表的なものが『機能性オリゴ糖』です。いまでは機能性オリゴ糖を効率良く製造するための酵素が発見され、さまざまなものがプレバイオティクスオリゴ糖として流通するようになりました。これも私たち学会での研究成果です」(西尾教授)

■高アミロース米の米粉を使った嚥下食など続々と開発

 今回の学会演題で注目されたのが「高アミロース米を使った米粉による嚥下食の開発」だ。高アミロース米の米粉は水を加え加熱してのり状にしたあと放置すると、ゼリー状に固まる。この現象を嚥下食として利用した。国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)食品研究部門上級研究員の芦田かなえ氏が言う。

「米の主成分である澱粉は、直鎖状に結合したアミロースと枝分かれ構造のアミロペクチンと呼ばれる2種類の成分からできています。通常の米はアミロースが15%ほどですが、これを25%以上にしたものが高アミロース米です。嚥下機能に障害がある人は、噛む力、のみ込む力が低下しており、普通の食事は食べられません。ごはんを嚥下食にするために、おかゆを炊いて酵素とゲル化剤を加えてミキサーにかけるのは従来大変な手間でした。高アミロース米の米粉から調理したゼリーを嚥下食にできれば、調理の手間を格段に省けると考えています」

 このような、新たな食感を与えるためのもうひとつの成果として、注目されているのが新素材「ナタピューレ」の開発である。開発者の一員である農研機構食品研究部門バイオ素材開発グループ長の徳安健氏が言う。

「農産物は変質しやすくフードロスになりやすい。そのため乾燥粉末化して、味、栄養、色、香りの維持に努めていますが、食感が消失し、固形化しづらいためその用途は限定的です。そこで、私たちはナタデココを使った『ナタピューレ』と呼ぶ新たな素材を開発。乾燥粉末化した農産物に再び繊維質の食感と固形化を取り戻せるようにしました。3Dフードプリンターなどを使えば、自由に形を整えられ用途が広がる。形が悪くて市場に出せなかったものなどフードロスも解消、新たな機能性表示食品作りの強い味方になるはずです」

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