骨粗しょう症には歯の治療で骨が腐る「顎骨壊死」のリスク…骨吸収抑制薬の長期服用で誘発

「骨粗しょう症」を抱えている人は歯科治療する際は注意が必要
「骨粗しょう症」を抱えている人は歯科治療する際は注意が必要

 近年、健康寿命を延ばすためには「歯の健康」が大切だと周知され、虫歯や歯周病の治療が重視されている。高齢になっても歯科治療やケアは欠かせないが、「骨粗しょう症」を抱えている人は注意する必要がある。小林歯科医院院長の小林友貴氏に聞いた。

「骨粗しょう症」は、骨の量が減って強度が低下し骨折しやすくなる病気で、高齢化が進む日本では1000万人以上の患者がいるといわれている。転倒をはじめ、手や肘をつく、くしゃみや咳といったちょっとした衝撃で骨折してしまうケースもある。背骨、手首、太ももの付け根の骨が折れやすく、骨折がきっかけで寝たきりになってしまう場合も少なくない。

 治療は薬物療法が中心で、骨密度を高めて骨折の危険を減らす。病状に応じて、①骨吸収を抑制する薬(ビスホスホネート、抗RANKL<デノスマブ>、カルシトニン、SERMなど)、②骨の形成を促進する薬(ビタミンK2、副甲状腺ホルモン<テリパラチド>など)、③骨代謝を調節する薬(カルシウム、活性型ビタミンD3など)が使われている。この中で、①骨吸収抑制薬の「ビスホスホネート」を長く服用している人は、歯科治療を受ける際に注意が必要だという。

「2003年、骨吸収抑制薬のビスホスホネートを服用している患者が抜歯などの外科的な歯科治療を受けた後、まれに『顎骨壊死』を発症するケースが報告されました。顎の細胞や組織が死んで骨が腐った状態になり、口腔内細菌の感染によって顎の痛み、腫れ、化膿といった症状が現れます。進行して悪化すると、壊死が広がって顎の骨が折れたり、皮膚の表面に穴が開いて膿が漏出するケースもあります」

 ビスホスホネートの長期服用がなぜ顎骨壊死を起こすのか、まだ詳しい機序ははっきりわかっていないというが、日本の研究では、ビスホスホネートに認められる「白血球に働きかけて殺菌物質の産生量を増やす」という作用が関係しているとの報告がある。ビスホスホネートを長期服用している人の場合、口腔内に常在している細菌が歯周ポケットや歯科治療による外傷などから顎の骨の中に侵入して炎症を起こすと、白血球が産生する殺菌物質が過剰になり、自分の細胞などを攻撃するなどして顎骨壊死を誘発しやすくなるという。

「ビスホスホネートの投与期間が長くなればなるほど発症リスクが高くなり、さらにステロイドなどの免疫抑制剤を使っている人や、糖尿病などの合併症があって感染しやすい状態の人もリスクがアップすると考えられています。ただ、発症頻度はまれで、がん治療などで高用量のビスホスホネート系薬剤を静脈注射投与している患者で0.6~6.7%、骨粗しょう症で使われる低用量の経口投与では0.00038~0.1%程度と推計されています」

■休薬してから治療が行われるケースも

 それでもリスクが考慮され、骨粗しょう症の治療で長期間ビスホスホネートを服用している人が抜歯などの外科的な歯科治療を行う場合、当初は「3年以上服用している人は3カ月の休薬の後で処置を行う」とされていた。該当する患者が来院した場合、まずは骨粗しょう症治療の担当医に「外科的な歯科治療を行いたいので3カ月程度の休薬が可能かどうか」を手紙などで打診し、問題がなければ休薬後に処置を行う。休薬が難しいケースでは、まずは口腔内の炎症をできるかぎり少なくするために歯石除去や殺菌などの処置を行ったうえで、治療の1時間前に抗生剤を服用してもらってから実施する手順だったという。

「しかし、さらに骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の研究が進んだ結果、『4年以上の服用で少なくとも2カ月の休薬』に変更となり、現在は『低用量であれば休薬は必要ないのではないか』とされています。今年3月、米国口腔顎顔面外科学会による予防・診断・治療の指針の改定で、そう言及されたのです。これを受け、いまは休薬ができなかったケースと同じような手順で治療を行っています」

 ビスホスホネートなどの骨吸収抑制薬は骨粗しょう症に対して非常に有効な薬なので処方されている患者は多い。歯科治療を受ける際はお薬手帳を持参したり、治療前に使っている薬を歯科医に伝え、しっかり指示を仰ぐ。自己判断での休薬は絶対にやってはいけない。

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