患者数日本一の性感染症「クラミジア」なぜ侮ってはいけないのか 性交1回の感染率は30~50%

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最近、感染症というと新型コロナや梅毒ばかりが注目されるが、「性器クラミジア」を侮ってはいけない。日本で最も患者数が多い性感染症でありながら、話題にならないのは簡単に治るイメージがあるからだ。しかし、これは大間違い。じつは発見しにくく、再発率が高い厄介な病気だ。しかも、クラミジアに感染するとHIV(エイズウイルス)への感染率が3~5倍に増加するほか、男女ともに不妊の原因になる。性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(東京・新宿区)の尾上泰彦院長に聞いた。

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「クラミジアの病原体は、クラミジア・トラコマチスという細菌の一種で、性的接触を介する粘膜との直接接触や体液の交換で感染します。感染力が強いのが特徴で、1回の性行為で感染する確率はHIVが1%未満に対して、性器クラミジアは約30~50%。しかも、男性の50%、女性の70~80%は無症状です。症状が出ても、比較的軽いので気づかないまま過ごし、感染源となってしまうことが少なくありません」

 実際、国立感染症研究所が公表している2000年から20年の性器クラミジア感染症の患者数の推移を見てみると、国が指定する約1000カ所の医療機関の定点報告数は02年の約4.3万人をピークに減少しているものの、15年からは増加傾向にあり、20年には約2.8万人が報告されている。

「気になるのは男女ともに感染者数が15年以降増えていることです。定点当たりの報告数は15年が男性が11.8人から15.1人で1.3倍、女性は12.8人から13.9人で1.1倍となっています。とくに20代の男女の増加率が高い。国内の若年人口の減少を考えれば、他の年代に比べて子供を産むのに適している若年層の男女の性器クラミジア罹患率が高いことは出生率の低下にも関係する問題です」

 性器クラミジアに感染した男性は、それを放置していると精巣上体炎を発症する恐れがあり、男性不妊の原因になるという。

「精巣上体炎とは、精巣に付着している精巣上体に細菌が感染して陰嚢の腫れ、痛み、発熱を生じます。ひどいと精巣に感染して不妊の原因となります。この病気のほとんどは性器クラミジア感染によるものです」

■治しにくく不妊につながる

 女性の場合は、感染が子宮内膜や卵管に広がると、着床障害や卵管障害、子宮外妊娠などの不妊原因となる可能性がある。

「妊娠するには、精子と卵子が出合って融合した受精卵が子宮の内側を覆っている子宮内膜と呼ばれる粘膜に着床する必要があります。ところが、内膜に炎症があると着床できなくなる場合があるのです。また、卵巣と子宮を結び卵子と精子の通り道で、出合いの場所でもある卵管にまで炎症が広がると、卵管が狭くなって塞がり、卵子が通れなくなり、不妊リスクが高まるといわれています」

 実際、不妊原因の30%が卵管因子とされ、そのうち60%以上がクラミジア感染によるものだとの報告もある。

「怖いのはそれだけではありません。妊娠中のクラミジア感染は流産や早産の原因となることや、母子感染により胎児が肺炎や結膜炎を起こすこともあるのです」

 クラミジアが厄介なのは、早期発見・治療が難しいうえ再発率が高いからだ。

「男性の場合、感染すると1~3週間後に、尿道口から白い分泌物が出て、尿道のかゆみ、違和感、不快感などの症状に襲われます。女性の場合は、おりものが増えたり、下腹部や喉が痛くなったりします。しかし、症状のない人も大勢います。しかも、クラミジアは感染経路が多く、腟性交による尿道や子宮頚管への感染のほか、オーラルセックスによる咽頭感染、肛門性交による直腸感染、感染者の体液が目に入ることによるクラミジア性結膜炎を起こすこともあります。それだけ症状も多く、お腹や目の不調の原因がじつは性器クラミジア感染だったということもあるのです」

 たとえば、クラミジアの咽頭部の感染はオーラルセックスが原因と考えがちだが、目に感染して、病原体のクラミジア・トラコマチスが目と鼻をつなぐ鼻涙管を通って鼻腔へ移行、そして咽頭へ感染するケースもある。そうなると喉の不調は風邪かと思い込んで治療されず、パートナー同士で感染し合うことにもなりかねない。性器クラミジアの再発率は15~30%といわれるが、それは治療に問題があるのではなく、パートナー同士のピンポン感染が原因ともいわれている。

 厚労省の推計によると22年の出生数は約77.1万人。戦後最少の21年の81.2万人を4万人ほど下回り、合計特殊出生率も約1.27で1.30を割り込む見込みだ。出生数の低下の原因は若者を取り巻く経済状況や結婚に対する価値観の変化といわれるが、静かに広がる性感染症による不妊症もある。そのことを認識し、政府は性感染症対策にも一層の力を注ぐべきではないのか。

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