鼻水に不快を感じる「後鼻漏」には要注意…患者は50~60代に多い

放っておくと自身のQOLにも影響が(写真はイメージ)
放っておくと自身のQOLにも影響が(写真はイメージ)

 風邪をひいていないのに夜間に咳が止まらず、なかなか寝付けなかった経験はないだろうか。就寝時に悪化するようであれば「後鼻漏」かもしれない。今月11日、岸田首相が「慢性副鼻腔炎」の手術を受けたと報道されたが、これらの炎症を放置し慢性化すると、後鼻漏が引き起こされる。「アレジオ銀座クリニック」の呉孟達院長に聞いた。

 鼻水は一般的に成人で1日約6リットル生成されており、そのうち3割は違和感を持つことなく無意識に喉へ流れている。しかし、鼻粘膜の炎症などによって鼻水の量が急激に増加したり、粘り気のある性質へ変化することで、喉へ流れ落ちた鼻水に違和感や不快感を覚えるようになる。この症状を「後鼻漏」と呼ぶ。

 発症する主な原因には、鼻炎や副鼻腔炎をもたらす感染性炎症や、花粉などのアレルギー性炎症が挙げられる。これらは「真性後鼻漏」と呼ばれ、異常に産生された炎症性分泌物が喉へ流れ出ることから“本物”の後鼻漏と位置付けられている。

 また、実際に鼻水が喉へ流れ出ていないにもかかわらず、後鼻漏に似た症状が現れる「仮性後鼻漏」には、主に上咽頭炎や逆流性食道炎が挙げられ、“偽物”の後鼻漏とされている。

「近年、花粉症患者の増加や、新たな感染症の出現などによって、患者数は年々増加しています」

 実際、アレジオ銀座クリニックを受診する患者のうち、9割が後鼻漏の症状を訴えているという。

「鼻の炎症を放置した場合、細胞に傷がつき『DAMPs』という成分が放出されます。これは細胞の危機を知らせる信号として機能している成分で、本来は細胞の中から出てくることはありません。しかし一度出てしまうと自身の免疫細胞がそれを攻撃して、新たな炎症を引き起こすようになります。これを自然炎症と呼び、炎症が慢性化すると、この負の連鎖が繰り返され、薬での治療は難しくなってしまいます」

■放置するとうつ病につながるケースも

 自然炎症を発症させないためにも、まずは原因となる炎症を初期の段階で根本的に治療し、慢性化させない必要がある。慢性化した人はかなり高い確率で後鼻漏の症状が現れるとのことから、鼻や喉に異常が生じた際には、早期の受診が望まれる。

「鼻水が喉へ落ちてきてへばりついている感覚や咳払い、痰の絡む咳や声がかれるなどの症状を感じたら、後鼻漏の疑いがあります。当院を受診する50~60代の患者さんに多いのが、夜中に痰が喉に絡み苦しくなって何度も目が覚めるという症状です。また、会話中に咳払いや咳き込んでしまい、人と会うことがおっくうになり、結果、うつ病を発症するケースもあります」

 あおむけで横になると鼻の構造上、鼻水が喉へ流れやすくなり、後鼻漏の症状がより顕著になる。

 そのため、後鼻漏は喉の不快感だけではなく、睡眠障害や精神疾患など、自身のQOLにも影響をもたらしてしまう。

 また、後鼻漏は炎症に対する治癒力が高く慢性化しにくい若年層に比べ、中高年に多いことから、過去に鼻の炎症を何度も経験してきた人は注意が必要だ。

 治療は基本的に薬の処方か外科的治療によって行われるが、食生活の改善によって症状を軽減させられるという。具体的なポイントは次の通りだ。

【腸内フローラの改善】

「腸の粘膜と鼻の粘膜は一心同体です。日本食や発酵食品から善玉菌を取り入れると腸内フローラのバランスが良くなって免疫機能が向上し、症状を改善します。そのために、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を養う野菜をできるだけ多く取りましょう」

【良い油の摂取】

「炎症が起きると炎症性生理活性物質が作られます。これは更なる炎症を引き起こす原因になりますが、この原料になるのがオメガ6脂肪酸です。欧米食に多く含まれ、欧米食化している現代人は、炎症を引き起こしやすい体質へと変化してしまっています。えごま油や青魚を摂取し、炎症を抑制させるオメガ3脂肪酸を増やしましょう」

【ポリフェノールの摂取】

「お茶やコーヒーに含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、抗炎症作用も持ち合わせています」

 後鼻漏をもたらす炎症を発症させないためにも、免疫力を高める食生活を心がける必要がある。また、炎症を悪化させないために、鼻炎や副鼻腔炎の症状が治まった2、3週間後までは、炎症をこじらせる“活性酸素”を発生させるたばこやお酒は控えた方が後鼻漏の予防に効果的とのことだ。

 自宅で取り組める食事から、後鼻漏の症状改善や予防に努めよう。

関連記事