なかなか良くならないうつ病は「そううつ病」を疑え

抗うつ薬では良くならないばかりか、症状悪化
抗うつ薬では良くならないばかりか、症状悪化

 なかなかよくならないうつ病は、もしかしたら「双極性障害(双極症)」かもしれない。一般的には、そううつ病とも呼ばれる。

 双極性障害とうつ病。どちらも似たようなうつ状態を経験するため混同されがちだが、医学的には別の病気であり、治療法も大きく異なる。たとえばうつ状態に使われる抗うつ薬は、うつ病にはよいが、双極性障害ではかえって悪化させかねず、主に使うのは気分安定薬などだ。

「ところが双極性障害の診断は難しく、うつ病として扱われているケースが多い。治らないうつ病の3割は双極性障害、という報告もある」

 こう言うのは、東京歯科大学精神科の宗未来准教授だ。

 双極性障害は「そう」と「うつ」が反復する病気だ。「そう」の時は調子が上がり、変に明るくまたは怒りっぽく、活動が増え、眠らなくても平気になる。「うつ」の時は、気分が落ち込みやる気が出ず、疲れやすい。これらが交互に繰り返されるなら双極性障害の診断がつきやすいが──。

「双極性障害の3分の2はうつで発症し、うつの期間が圧倒的に長い」

 双極性障害には、そうの程度が激しい“Ⅰ型”と、軽度の“Ⅱ型”がある。特にⅡ型では「人生の半分近くがうつ状態」といわれるほどで、「そうの経験は1回だけ」という患者すらいる。

 だからうつ病と誤診されやすい。近年「新型うつ」とも称される非定型うつ病(過食・過眠・見捨てられ不安・都合の悪い時だけうつになるなど)の8割は双極性障害との報告もある。

「双極性障害の8割は最初は別病名がつけられ、正しい診断がつくまで平均で8年、3分の1は10年以上という欧米のデータもあります。日本ではもっとかかっているのではないでしょうか」

 双極性障害には、アルコールや薬物の依存症、摂食障害、境界性パーソナリティー障害、ADHDやASDなどの発達障害、パニック症などの不安症、PTSDなどの合併が多く、受診時にそちらに重きが置かれてしまうことも多い。

「双極性障害は自殺リスクが高く、一般人口の20~30倍です。未治療では2割が自殺に至り、逆に自殺未遂歴のあるうつ状態の7割が実は双極性障害だったとの報告もある。速やかに見極め、適切な治療につなげなければなりません」

■うつ病では見られない症状があるかどうか

 双極性障害を疑うポイントは、過去にわずかな期間でもそう状態(=ハイの状態)がなかったか。普段よりも、「早口」「おしゃべり」「電話をかけまくる」「精力的に活動」「眠らなくても平気」「浪費」「服装や化粧が派手」「怒りっぽい」「自信過剰」「異性関係がだらしない」……。うつ病なら見られない。

「病気の性質上、最初から正しい診断に結びつかないかもしれません。しかし、もしご家族にうつ状態の方がいて、抗うつ薬で効果がなければ、詳しい精神科医に診てもらうのも一つの手です」

 宗医師の印象に残っている20代の患者がいる。慢性のうつ状態に加え、摂食障害、アルコール・買い物・セックスの依存症、自傷癖、PTSDの症状があり、境界性パーソナリティー障害との診断だった。抗うつ薬を出すと、うつ状態で怒りっぽさが目立つ、そうとうつの混合状態を認めたため、もしや、と思い双極性障害の薬(気分安定薬)を処方したところ、すべての症状がきれいに消え、ほどなく就労に至った。

「効果もないのに抗うつ薬や精神安定剤の垂れ流し的な処方のまま放置というのが一番問題です」

 増えているといわれるうつ病だが、その中には双極性障害が埋もれているかもしれないのだ。

■治療アプリも

 3月1日、「日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023」が発刊。宗医師も「心理社会的支援」の執筆責任者を担当。双極性障害の社会リズム治療アプリ「ココロのリズム」がうつ病学会ホームページから無料で利用可。

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