【男性不妊】世界中で精子の数が減少している…40年で60%減との報告も

不妊症の原因は男女どちらにもある(写真はイメージ)
不妊症の原因は男女どちらにもある(写真はイメージ)

 不妊症の原因は男女どちらにもある──。この認識は徐々に浸透しつつあるが、自分の身に置き換えた時、「俺は大丈夫」などと思っている男性は少なくないのでは。

「不妊症の原因の約半数は男性因子が関係しています」

 こう指摘するのは、順天堂大学大学院医学研究科デジタルセラピューティックス講座特任教授の井手久満医師。

 WHO(世界保健機関)が不妊症のカップル7273組を対象に行った調査では、不妊症の原因が「男性のみ」「男女とも」を合わせると48%を占めた。

「不妊症の治療経験のあるカップルは5.5組に1組という報告がありますが、不妊症は男女双方の問題であり、男性側にも検査が必要」(井手医師=以下同)

 精子の元気がなかったり、精子の数が少なかったり、または精子が全くいなかったりすると、男性不妊となる。実は、過去40年間において、精子の数が50~60%減少しているという。

「これは日本だけでなく、世界的に起こっている現象です。男性不妊の原因の約80%に関与しているのが、精子への酸化ストレスです」

 喫煙、肥満、ストレス、食生活、不規則な生活、激しい運動、加齢、深酒……。いずれも酸化ストレスとなる。精子は精巣の中で74日かけて育つが、その最中に酸化ストレスを受けると、DNAが損傷してちぎれ、DNAの断片化が起こる。そしてこのDNA断片化は、胚盤胞到達率や着床率、妊娠率の低下を招くのだ。

「DNA断片化指数DFI(損傷したDNAを持つ精子の割合を示した数値)が高いと自然妊娠だけでなく、体外受精、顕微授精の妊娠率も低くなり、流産率が高くなる」

■下着はボクサータイプを

 精子DNA断片化による男性不妊に対しては、いくつかの対策がある。自分でできることとしては、「禁欲期間を短くする」や「禁煙」。

 禁欲期間に関しては、「我慢して精子をためた方がいい」という印象がある。しかし、妊娠率で見ると間違いだ。

 禁欲期間と精子の状態を調べた研究では、確かに禁欲期間が長いほど精液量、精子濃度、総精子数が増加。しかし、精子運動率と生存精子率は低下し、精子のDNA断片化は上昇した。

 精子のDNA断片化の対策には、さらに「精巣内の酸化ストレスを中和する抗酸化剤の服用」「陰嚢冷却」がある。

「陰嚢の温度が上がるのは、精子に対してよくない。陰嚢温度が上昇する要因としては、発熱、長時間の座位、高温での入浴、体にフィットする下着、そして精索静脈瘤などがあります」

 マサチューセッツ総合病院による不妊治療を行うカップルの男性パートナー656人の下着の調査では、ボクサータイプのようなゆるい下着に対し、ビキニやブリーフタイプといったタイトな下着の人は精子濃度や総精子数が低かった。

 陰嚢温度上昇の要因に挙げた精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る血液が逆流し、静脈が瘤のようになる病気だ。

 精巣内の温度が2~3度上がるほか、酸化ストレスが増し、精巣内の低酸素状態を引き起こす。結果、DNA断片化に至る。一般男性の10~20%にみられ、男性不妊の原因の30%を占める。触診と超音波検査でわかる。

「ドップラー超音波(音のドップラー効果を利用して血液の流れる方向や速さを調べる)で血液の逆流が起こっていないかを調べます」

 精索静脈瘤の治療では、抗酸化剤の服用または手術。根治を目指すなら手術だ。精巣静脈を結紮(縛って結ぶ)・切断で逆流を防止する。

 言うまでもなく、男性不妊のリスクを下げるには、「若さ」も重要。しかし過ぎ去った年月はどうしようもない。

 カップルで子供を望んでおり、なかなか子供ができないようなら、一日でも早く専門外来を受診すべき。精液の中に精子が存在しないような場合も、精巣内精子採取術(TESE)といった、精子を採取する治療法もある。

■不妊の定義

 不妊とは、日本産科婦人科学会によると「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」。

 “一定期間”とは1年間が一般的だが、男女ともに妊娠率が下がる35歳以上は、半年ほどで専門外来を受診した方がいい。

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