高齢者の正しいクスリとの付き合い方

血圧を下げるα1遮断薬とβ1遮断薬 きちんと副作用を知っておく

メリットとデメリット、十分に理解して
メリットとデメリット、十分に理解して

 みなさんも一度は「アドレナリン」という言葉を聞かれたことがあると思います。「気持ちが高ぶると出てくるもの」とイメージする人が多いでしょうが、それで大きく間違っていません。

 アドレナリンはノルアドレナリンなどとともに「カテコールアミン」と呼ばれるホルモンの一種です。これらのカテコールアミンは、交感神経にある受容体を介してさまざまな作用を示します。α1受容体は主に血管に存在していて、そこにカテコールアミンが作用すると血管収縮が起こり、血圧が上昇します。この作用は、特に大ケガをした時や手術直後などの緊急時には、生命維持にとって必要なもの(血管収縮は止血にもつながり、血圧の維持という点でも重要です)なのですが、通常の状態では高血圧の原因となってしまいます。そういった場合に、「α1遮断薬」というクスリを使うとカテコールアミンがα1受容体に作用することができなくなるため、降圧効果が得られるのです。

 α1遮断薬による降圧効果は比較的強力であるため、高血圧の治療の第1段階で用いられることはあまりなく、他の降圧薬で効果が十分に得られなかった時に併用されるケースが多いです。また、その強い降圧効果のため、他のクスリよりも立ちくらみやめまいが起こりやすいという特徴があります。

 もうひとつβ1受容体というものがあり、これは主に心臓に存在しています。そこにカテコールアミンが作用すると、心臓の動きが強くなり、心拍数も増加します。こちらもやはり生命維持にとって必要なものです。「β1遮断薬」というクスリを使うと、カテコールアミンが心臓のβ1受容体に作用することができなくなるため、心臓の動きを少し弱くし、心拍数も低下させます。その結果、心臓の血液を押し出す力を弱めることができるため、降圧効果が得られます(実際はもっと複雑な作用ですが)。こちらは心臓に対する作用もあるため、特に高血圧でかつ狭心症や心筋梗塞後などで心臓をある程度休ませる必要がある症例に用いられます。一方で、心拍数が低下することから徐脈の副作用が出る場合があるため、そちらには注意が必要です。

 β1遮断薬は、他にも振戦(ふるえ)に対しても用いられるケースがあるのですが、ここにも注意点があります。以前お話ししましたが、糖尿病のクスリを使っている場合には低血糖のリスクがあります。低血糖の症状の代表的なものが振戦です。そのため、糖尿病のクスリとβ1遮断薬を併用していると、低血糖の症状が隠されてしまい、低血糖が重篤になってしまう可能性があるのです。

 メリットとデメリットを十分に理解して、うまくクスリと付き合っていきたいですね。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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