梅毒の患者は地方で急拡大している…「累計10人未満」は青森、山梨、島根のみに

梅毒感染拡大の背景にはコロナ不況も関係している
梅毒感染拡大の背景にはコロナ不況も関係している(C)日刊ゲンダイ

 梅毒の新規発症者数が止まらない。国立感染症研究所が毎週発表する、感染症発生動向調査週報(IDWR)速報データの第21週(5月22~28日)によると、梅毒の累計報告件数は前年の約1.37倍の5766件となった。このままのペースで増加すると今年の年末には1万7000人を超えることになる。注目すべきは新規の梅毒患者の地方急拡大。第21週時点の累計報告件数が1ケタなのは3県に過ぎず、2020年の13県から4分の1近く減少。逆に300件以上の感染拡大エリアは4都道府県と倍増した。

 直近5年間のIDWR第21週の梅毒の新規届け出の累計数のうち、1ケタの都道府県を調べてみると、19年は9県、20年は13県、21年は9県だった。ところが22年は4県と激減。23年はさらに減って3県(青森、山梨、島根)のみとなった。逆に300件以上は22年では東京、大阪だけだったが、今年は、東京、大阪、愛知、北海道の4都道府県に拡大した。

 100~299件で見ると、19年は3県、20年3県、21年3府県と安定していたが、22年は8道県と急増し、今年も7県(神奈川、福岡、埼玉、千葉、静岡、兵庫、広島)となっている。

性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で日本性感染症学会功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」(東京・新宿)の尾上泰彦名誉院長が言う。

■北海道は5年で7倍以上に

「なかでも目を引くのが北海道の増加ぶりです。19年の第21週には43件だったが今年は同時期で320件と7倍以上に増えています。愛知の328件とは僅差で、東京、大阪に次ぐ梅毒感染地になりかねない状況です。届け出の多くが歓楽街のある札幌市保健所管内からのもので、病院を受診した人の多くが性風俗店を利用した後に感染が確認されています。これは札幌に限ったものでなく、大都市を中心にいわゆる性風俗産業周辺で広がっているようです。男性の場合には性器の潰瘍やビランなどの症状で気がつく場合がありますが、女性は気がつきにくく、それが感染拡大の原因のひとつになっているのかもしれません」

 気になるのは22年を境に累計の報告件数がそれまでの2000件台から4201件と倍増し、地方の感染報告件数も22年から増えていることだ。一体、22年に何があったのか?

「22年は年明けから3月末までに新型コロナ第6波が襲い、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界経済の先行き不安などから円が急落するなど、景気が落ち込んでいた時期です。それは22年の全国の倒産件数(負債1000万円以上)にも表れていて、6428件と3年ぶりに前年を上回りました。その77%は不況型倒産と呼ばれるもので、販売不振、業界不振が原因でした。地域別では1月から10月まで連続して増えた東北が目立ち、対前年50%増となりました」(経済ジャーナリスト)

 総務省が今年1月に公表した「労働力調査(基本集計)2022年平均」の地域別の就業状況で見ると、22年平均の就業者数は前年に比べて11地域中6地域(北海道1万人、東北4万人、北関東・甲信3万人、北陸3万人、中国2万人、九州5万人)で減少している。

■背景に20代女性の苦境か

 とくに追い詰められたのが非正規で働く若い女性だといわれる。

 東大チームがまとめた20年3月~22年6月で、新型コロナの影響で増えた自殺者数は約8000人。そのうち20代が1837人(男性745人、女性1092人)で、10代377人のうち282人が女性だったという。

「今回の梅毒感染拡大の背景にはコロナ不況も関係していると思います。20代の女性を中心に性風俗産業周辺で広がっているのは確かですが、いわゆるプロの女性は性感染症対策をしっかりしており、仮に罹患してもお客さんに迷惑をかけるようなことはしません。今回の梅毒感染の拡大は、不況により心ならずも夜の仕事をせざるをえなかった、性感染症の知識のないアマチュア女性が感染源の可能性があるかもしれません」

 尾上院長が懸念しているのは、こうした女性は孤立しており、性感染症を診てくれる病院は治療の実際を知らず、病気を放置していることだ。

「私の患者さんにも東北から東京に来て初めて風俗の仕事を始めたという女性がいますが、異変に気づいてクリニックにたどり着くまで3カ月以上かかっています。理由は、住まいと職場の往復で、孤立しているからです」

 貧困と風俗と梅毒。21世紀になっても不幸の連鎖は変わらない。

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