糖尿病ではプライベートゾーンにも合併症が…かゆみ、痛み、出血などトラブル続出

必ず専門医に診てもらう
必ず専門医に診てもらう

 糖尿病の合併症というと、網膜症、腎症、神経障害が有名だが、じつは男女の大事なところ、いわゆるプライベートゾーンにも合併症を引き起こす。半世紀以上、性感染症専門医として活躍し、「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で「プライベートケアクリニック東京」(東京・新宿)の尾上泰彦名誉院長に話を聞いた。

■皮膚掻痒症、カンジダ、勃起障害…

 これからの季節、股間のかゆみに悩む人が出てくるが、その中には糖尿病が関係している場合がある。ひとつは股間のインキンタムシ、もうひとつは陰嚢の皮膚掻痒症だ。

「インキンタムシは水虫の原因として有名な白癬菌による皮膚疾患です。高温多湿を好み、汗っかきな若い男女の股間が大好きです。とくに糖尿病の人は血液中の糖質を水分と同時に押し出そうとするため、おしっことともに汗をかきやすい。そのため中高年でもこの病気に悩む人が少なくありません」

 インキンタムシがかゆいのは、白癬菌が角質層の下の表皮細胞に接触すると炎症が起きるから。かきすぎて皮膚が茶色になっている患者も少なくないという。

「股間の皮膚に炎症が続くと、色素沈着が生じて皮膚が茶色になるのです。赤色部分はまだ炎症が残っている部分。患者さんの中には『水虫と同じなら市販の水虫薬を塗ればいい』と考える人がいますが、素人療法は思わぬ薬の副作用を生みかねません。必ず専門医に診てもらいましょう」

 陰嚢の皮膚掻痒症は、がんや腎不全など内臓疾患の前触れとして起こることがある。糖尿病はその代表的疾患だ。

「皮膚掻痒症は夜になるとかゆみが強くなるという性質があります。恥ずかしさから病院に行けず、色素沈着とかきむしったことによる皮膚の角質化で股間が茶色と赤色が混じりあってごわごわしているケースが少なくありません」

 股間のかゆみといえばカンジダ菌による皮膚炎を忘れてはいけない。亀頭部分や包皮がかゆみや痛みを伴い、赤くなる。

「カンジダ菌は常在真菌の一種で、健康な人は他の真菌とバランスを保っています。ところが糖尿病になってそのバランスが崩れるとカンジダ菌がプライベートゾーンに感染する性器カンジダ症を患う男女がいます。男性はそこからカンジダ性亀頭包皮炎になるのです」

■梅毒や淋病の感染リスクも

 男性の糖尿病で重度の場合は、この病気にも気をつけたい。

「包皮の先端部分を包皮輪と言いますが、重度の糖尿病患者さんのその部分が硬くなり柔軟性が失われ、縦に亀裂が入り出血することがあります。それが糖尿病性包皮炎です。若い小太りの包茎や仮性包茎の男性がなりやすく、糖尿病による末梢の血行障害が原因です。包皮輪の柔軟性がなく十分洗うことができないために、カンジダ性亀頭包皮炎や尖圭コンジローマなどを合併しやすいことが知られています」

 糖尿病による、こうしたプライベートゾーンの皮膚疾患の合併症が怖いのは、傷ついていたり防御機能が失われた状態の皮膚から、梅毒や淋病などの性感染症が感染する可能性があることだという。男性の場合、プライベートゾーンにおける糖尿病の合併症で多くの人がイメージするのはED(勃起障害)だろう。

「男性が正常な機能を発揮するには、海綿体に血液が流入するだけでなく、脳で感じた性的刺激を正しく伝え、海綿体に血液が流入する仕組みが正しく動かなければなりません。しかし、重度の糖尿病の男性患者は神経障害により、それができずにEDになってしまうのです」

 最近は糖尿病治療に「SGLT2阻害薬」という薬が処方されることが多い。尿中に排出した血液中の糖を再吸収させないことで血糖値を下げるタイプの2型糖尿病の治療薬だ。単独で使用すると低血糖リスクの危険性がないことや、体重を減少させる効果などが報告されている。しかし、この薬は尿路・性感染症を発症しやすいから注意が必要だ。

「尿中の糖が増えるため、尿中に細菌などが増殖する可能性が懸念されています。具体的には腎盂腎炎や膀胱炎、性感染症としては女性の外陰部膣カンジダ症などを発症しやすいことが報告されています」

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