感染症別 正しいクスリの使い方

【誤嚥性肺炎】死因6位に…独立してカウントされるようになった

高齢者や脳血管障害の後に起こりやすい
高齢者や脳血管障害の後に起こりやすい

 気管の入り口にある「喉頭蓋」は、われわれが食物や唾などをのみ込むとき、反射的に気管に蓋をして、食物などを食道に導く役割をしています。ただ、ときには誤って食物や唾などが気管に入ってしまう場合があります。このときには、咳き込んだりすることで誤って入った異物を気管から外に出すように体の機能が働きます(=むせ)。

「誤嚥性肺炎」は誤って肺の方に食物や唾などが落ちてしまった(誤嚥)後に起こる肺炎で、高齢者や脳血管障害の後に起こりやすいとされています。

 たしかに、高齢者は咳反射する能力も低下しますし、嚥下筋の筋力や咀嚼力、唾液量なども低下し、誤嚥が起こりやすい状態となっているのです。また、高齢者は気管の感覚低下から、「むせない誤嚥(不顕性誤嚥)」を起こしてしまい、発熱などの自覚症状も少ないまま肺炎を起こしているケースも見られます。

 ヒトの気管は右肺につながる右気管支と、左肺につながる左気管支とに分かれるのですが、右気管支は左気管支よりも太く垂直に近い構造をしているため、右気管支の方が誤嚥しやすくなるといわれています。そのため、誤嚥性肺炎は右の肺に起こりやすいとされます。

 日本の死因(2021年)は、1位悪性腫瘍、2位心疾患、3位老衰、4位脳血管疾患、5位肺炎、6位誤嚥性肺炎と続きます。

 以前は肺炎の中に誤嚥性肺炎を含めていたため、肺炎で亡くなる方が全体の3位でした。近年は誤嚥性肺炎で亡くなる方が多く、一般的な肺炎と区別する形で、誤嚥性肺炎として独立してカウントされるようになっています。それくらい“身近な病気”といえるのです。

 誤嚥性肺炎の原因菌は、その発症機序からも口腔内細菌が多いと考えられています。治療は通常の細菌性肺炎と同様にペニシリン系抗生物質などを点滴するケースが多いです。原因菌の多くが口腔内細菌ということは、口腔内のケアが予防につながります。

 次回は誤嚥性肺炎の予防について詳しくお話しします。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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