月経のたびに息切れが…女性の気胸の正体は「子宮内膜症」かもしれない

思いもよらない部位に
思いもよらない部位に

 重度の生理痛に悩まされる「子宮内膜症」は、月経がある女性の10人に1人が発症する身近な病気だ。しかし、思いもよらない部位に子宮内膜症を発症し、意外な病気につながるケースがある。聖路加国際病院女性総合診療部部長の平田哲也氏に聞いた。

 子宮内膜症とは、本来子宮の内側にある子宮内膜が、腹膜や卵巣、子宮と直腸の間にあるダグラス窩など、子宮の内側以外で発生する病気だ。月経痛(月経困難症)や性交痛、排便痛が特徴で、進行すると月経時以外での慢性的な下腹痛のほか不妊症を引き起こす。30~40代によく見られ、月経周期が短く妊娠の経験がないといった、生涯における月経回数が多い人に発症しやすいという。

「本来、子宮内膜は妊娠しなければ毎月剥がれ落ち、月経血とともに体外に排出されます。しかし、何らかの原因によって子宮内膜が逆流したり、逆流した月経血の刺激によって腹膜が子宮内膜へ変異して子宮内膜症を発症すると考えられています。ほかにも、血液やリンパ液とともに子宮内膜が転移する説も濃厚です」

 そうした子宮内膜が一般的な腹膜や卵巣などではなく、ほかの部位に発生するのが「希少部位子宮内膜症」だ。全身のあらゆる部位で発症し、部位によって異なる症状が現れる。子宮内膜症患者の0.5%に併発しているとされ、2006~16年に行われた調査によると、希少部位子宮内膜症を発症しやすい部位は腸管が672例、胸腔が495例、膀胱・尿管が203例、へそが110例と報告されている。

 とりわけ注意したいのが、子宮内膜症が肺で発症する「胸腔子宮内膜症」だ。月経のたびに気胸を繰り返す「月経随伴性気胸」を引き起こし、胸痛や息切れなどが現れる。医師でも気胸を婦人科疾患と結びつけるのが難しく、診断まで時間がかかるケースが少なくないという。

「月経中に気胸を2~3回繰り返し、呼吸器外科で胸腔鏡手術を受けたところ子宮内膜症が見つかり当院に来院された患者さんがいました。気胸は手術で目に見える肺の病変を全て取り除いたとしても、微小な病変が1つでも残っていれば肺に穴が開いて気胸を起こすので再発率も40~70%と非常に高い。気胸になると胸痛や息苦しさで遠出が難しく、行動範囲が狭まるといった悩みを患者さんからよく聞きます。QOLの低下を防ぐためにも早期に診断を受け治療を始めるのが大切です」

 月経随伴性気胸を起こした患者のうち9割が右肺という報告がある。明らかな原因は分かっていないが、子宮内膜が直腸のある左側を避け、右側から腹水の流れに乗って右横隔膜から右肺にたどり着き気胸を起こすと考えられている。

「気胸患者の男女比は9:1で圧倒的に男性に多い点からも、女性が気胸を起こした場合には胸腔子宮内膜症を疑う必要があります。中には、繰り返される気胸で肺の病理組織検査を行っても子宮内膜症が見つからず、原因不明状態のケースも少なくありません。そういった場合、婦人科では試験的にホルモン療法を開始し気胸を起こさなくなれば、子宮内膜症と診断しています」

 ホルモン療法は低用量ピルやプロゲスチン製剤のほか、偽閉経の状態を誘発するGnRHアンタゴニストを服用して月経回数を減らし、気胸の根本にある子宮内膜症を発症させない体質をつくるのが一般的だ。

■膀胱に発生するケースも

 ほかにも、子宮内膜が膀胱にできる「膀胱子宮内膜症」を発症すると、月経時の頻尿や血尿、排尿時痛のほか、膀胱内に腫瘤ができて我慢できないほどの強い尿意を催すケースも少なくない。腹膜で発生した子宮内膜が時間の経過とともに膀胱まで浸潤し発症するとされ、婦人科検診で通常の子宮内膜症と同時に見つかりやすいという。

「月経時の排尿痛と血尿で当院を受診された40代後半の患者さんは、超音波検査で膀胱に腫瘤が見つかり、MRI検査を行ったところ膀胱子宮内膜症と診断されました。幸い手術が必要な大きさではなかったのでホルモン療法で症状は改善しましたが、腎臓から膀胱に入り込む管の部分で発症すると管を植え替える手術が必要になるので泌尿器科との連携も重要です」

 2018年、日本で初となる希少部位子宮内膜症のガイドラインが作成されたことで婦人科以外の診療部でも認知度が広がり、これまでなかなか診断されず適切な治療を受けられていなかった患者の数は減ってきているという。

「全身のあらゆる不調が月経の時期と重なるのであれば、子宮内膜症が原因になっている可能性があります。一度婦人科を受診してください」

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