舌のピリピリがずっと続く…「舌痛症」は治療で改善できる

50~70代の女性に多い
50~70代の女性に多い

 口の中に異常がないのに、舌が慢性的に痛む「舌痛症」という病気がある。治らないのではないかとあきらめている人も少なくないが、適切な治療を受ければ症状は改善できるという。舌痛症の診療に携わる「ラクシア銀座歯科クリニック」院長の吉川達也氏に詳しく聞いた。

 舌痛症は、舌や口腔内に異常が認められないのに、舌がやけどしたり、歯が舌に当たってこすれているような、ヒリヒリ、ピリピリとした痛みやしびれを訴える。痛み以外に口の乾き(口腔乾燥感)、味覚異常が生じることも少なくなく、50~70代の中高年の女性に多く、食事中や何かに没頭しているときは症状が和らぐのが特徴だ。

「舌痛症と診断された70代女性の症例ですが、舌の痛みやしびれ、口腔乾燥感のほかに『口の中に膜が張っている』という異常感覚や、甘いものを食べた後も味が残る味覚の異常感にも悩まされていました。ただ、人と会話をしたり、ガムを噛んでいると痛みが紛れるそうで、実際、舌痛症の患者さんは日中にガムを噛んで過ごしている方が少なくありません」

 これまで舌痛症は、心気症やうつ病の身体症状といったメンタル不調によるもの、あるいは更年期の症状だと解釈されていた。しかし近年、脳内の神経伝達の乱れなど脳の機能異常によって起こる「特殊な神経痛」の一種だと考えられてきているという。

「まだ原因ははっきりとは分かっていませんが、おそらく口の感覚をつかさどる神経の働きが何らかのきっかけによって乱れ、痛くなる要素がないのに痛みが生じるといった“痛みの信号の誤作動”のようなことが起こると考えられます。きっかけとして多いのが歯科治療です。治療自体に問題はなくても口腔内の刺激や環境の変化が神経の働きを乱す契機になるのです。こうした痛みの神経の働きの乱れには、心身の疲労、睡眠不足、体調の変化なども影響します」

 また、神経の働きの不具合から、わずかな刺激でも10倍、20倍も大きく感じてしまう感覚の過敏を引き起こすこともある。例えば、辛い物や熱い物など刺激物が苦手になるなどである。触覚の過敏も現れるため、歯が舌にこすれるような感覚から歯の角が当たっていると訴えて歯科で歯を丸く削ってくる患者もいるそうだ。

「舌痛症は口腔内にはっきりした異常がみられないことから『気のせい』などと診断され、治療を受けられず我慢している方が多いです。自然治癒する確率は少なく、放置すると痛みから仕事や家事に集中できなくなるなど日常生活に大きな影響を与える可能性もあるので、適切な治療が必要です」

■患者の7割は薬物療法で改善

 治療は、抗うつ薬や抗てんかん薬などの薬物療法や認知行動療法が世界的にも有効とされている。薬物療法は精神症状への効果というより、慢性の痛みそのものに対する効果を狙っている。痛みの神経の回路を落ち着かせることで症状を改善させると考えられており、用量も精神症状のそれに比べ少量で効果が得られることが多いという。一方、認知行動療法を行う専門家はごく少ないのが現状だ。

「約7割の方はおおむね数カ月の服用で症状が徐々に改善していきます。ただし、経過は個人差が大きく、眠気やふらつきといった副作用のリスクもあります。また症状が治まったからといって急に服用を止めると症状のぶり返しや、逆に副作用が出ることもあり、徐々に量を減らしていく必要があります。順調に治療が進めば、日常生活に支障を来さない程度の『寛解』まで至る方が多く、服薬を中止しても再発する人はほとんどいません」

 ただし、高齢者や持病、服用中の薬などによって処方が制限される場合もあるため、適宜、関連する医科各科との連携が求められる。

 また、服薬治療と並行して日常生活において次の4つを実践するとさらに効果的だという。①7時間を目安にしっかりと睡眠を取る。②疲労をためない。当面の間、家事は家族にできる限り協力を求め、休む時間を確保する。③症状がまぎれる時間を増やす。適度な運動が一番効果的で、汗ばんで少し息が上がる程度の1日5~10分ほどのウオーキングを週2回から始める。④偏食は避け、栄養バランスの整った食事を3食取る。

「初診時に病態のメカニズムから、具体的な生活習慣の改善法まで、丁寧にお伝えすることが重要だと考えています。病気に対する正しい理解を深めることが、症状の改善の第一歩になるからです」

 舌痛症は治る可能性が高い。かかりつけ医でなかなか症状が改善しない人は、一度専門医を受診してみるといい。

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