感染症別 正しいクスリの使い方

【ギョウチュウ】多くで検査廃止も九州や沖縄はいまも保有率が高い

懐かしい「ぎょう虫検査」
懐かしい「ぎょう虫検査」

 当連載の読者の多くは、小学生の頃に「ぎょう虫検査」をやった経験があるのではないでしょうか。朝、排便前に特殊なノリがついた青いセロハンを肛門に貼り付け、ギョウチュウ(蟯虫)が産んだ卵がないかを確認する検査に提出する、というものです。

 しかし、最近はほとんどの小学校でぎょう虫検査は行われていません。以前は、文部科学省の学校保健安全法施行規則により、学校での健康診断の項目に「ぎょう虫検査」(寄生虫卵検査)が含まれていました。しかし、近年では生活環境の改善と共にギョウチュウが検出されるケースが少なくなってきていて、2014年4月末に法律が改正され、ぎょう虫検査は2015年度で廃止されることになったのです。

 しかし、ギョウチュウの保有率には地域差があります。九州地方、特に沖縄県での保有率が高いことが知られていて、現在もぎょう虫検査が実施されている地域もあるのです。

 ギョウチュウは寄生虫の一種です。約1センチの白い虫で、尾端(びたん)がとがっているので、「pinworm(ピンのように尖った虫)」といわれています。感染者は小学校低学年以下の子供とその父母に多く、家庭内など集団感染が多いのも特徴です。

 ギョウチュウは人間の大腸や直腸に寄生することが知られています。夜間になると肛門の外に出て、肛門の周りに約100万個の卵を産みます。産みつけられた卵は6時間程度で感染力を持つようになり、人から人へ感染していくのです。

 かいた手であちこち触れることにより、虫卵が散らばります。卵は下着や布団、床などにも散らばるため、家族内や集団の場で感染しやすくなります。ギョウチュウは布団などに付着してからも2~3週間は生きているのです。

 ギョウチュウによって「蟯虫症」と呼ばれる病気が引き起こされると、肛門周囲にかゆみが出現し、夜間の寝不足につながるケースもあります。

 治療には、メベンダゾールやパモ酸ピランテル、アルベンダゾールといった駆虫薬が使用されます。パモ酸ピランテルの場合、1回の内服のみでギョウチュウを駆除することが可能です。しかし、虫卵は1回の服用だけでは駆除できないため、2週間程度間隔を空けて2度目の治療を行います。

 先ほど触れたように同居している人にも感染するので、虫卵が見つかったら家族全員で駆虫する必要があります。下着の着替えや洗濯、部屋の掃除もこまめに行い、手指をよく洗い、爪を短く切っておくことも大切です。ギョウチュウの卵は日光に対して弱いことも知られています。寝室に日の光を入れたり、寝具を洗った後にしっかり干したりすることも感染拡大予防につながります。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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