いま知っておきたい「爪水虫」最新情報(下)塗り薬と飲み薬のメリットデメリット

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 前回(上)の記事で、爪白癬(爪の水虫)の検査に新しい方法が加わったとお伝えした。イムノクロマト法を用いた国内初の白癬菌抗原キットで、顕微鏡など特別な器材は使わず、簡便な方法で、迅速かつ高い感度で爪白癬の有無がわかる。爪白癬は視診では3割が診断を誤るとの研究結果もあり、今後、正確な診断をする上での強い味方になることは間違いない。問題は、治療が適切に行われているかどうかだが--。

 埼玉医科大学皮膚科の常深祐一郎教授に話を聞いた。

 水虫といえば、足の指や足の裏にできる足白癬のイメージから、「治療は塗り薬」だと思っている人が多い。

 市販の塗り薬も複数の種類が出ているため、「市販薬でOK」と思っている人も多い。しかし、爪白癬に対しては当てはまらないという。

「塗り薬ではほぼ治りません。そして、爪白癬の薬は処方薬のみ。市販薬はありませんし、足白癬の薬は爪白癬に効きません」

 現在、爪白癬の薬は大きく分けて、塗り薬と飲み薬とがある。「塗り薬ではほぼ治らない」と前述したが、正確には治る可能性はゼロではない。

 しかし塗り薬で治癒を目指す場合、かなり根気がいる。

「塗り薬を爪の表面に塗ることで、有効成分が白癬菌のいる爪の中や爪床(爪の下にある皮膚)まで浸透します。ところが、ある程度の量は浸透するものの、おそらく爪の奥の隅々までは行き渡らず、効果が見えてくるまで数カ月かかる。治るまでとなると年単位で薬を塗り続けなくてはならず、しかしそれでも治験の結果では治るのは2割弱。そもそも『塗り続ける』という大前提ができる人はわずかで、実態調査でもそれが報告されています」

 塗り薬で一時は症状が改善しても、薬を中断したらまた再発する。完治には至らない。

 一方、飲み薬(経口薬)は効き目が高い。

「2018年に発売された最新の飲み薬(ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物)は、1日1回服用で12週間。ただ、効果が見えてくるのはもっと早く、服用して3~4週間できれいな爪が生えてきた、という患者さんもいます。効果の実感を得られることは、爪白癬治療の継続のモチベーションを保つ。飲み薬の継続率を調べた調査でも、テルビナフィン塩酸塩という飲み薬では平均継続率5.5カ月でした」

 テルビナフィン塩酸塩は、投与期間は決められていないものの、およそ6カ月とされている。平均継続率5.5カ月ということは、それをほぼ達している。

■肝機能障害があっても問題ない

 塗り薬ではなく、飲み薬。これが爪白癬治療のスタンダードとすべきだが、実際はそうなっていない。

 2022年、過去1カ月以内に爪白癬患者10人以上へ薬物治療をした医師1367人に、薬の処方状況についてのアンケートが行われた。

 それによると、外用薬(塗り薬)での治療が約6割だった。

「塗り薬が出た当初は、軽症の爪白癬では塗り薬でもいいのではないかという見方もありました。しかし、治りきらないうちに患者さんが治療に来なくなり、やがて重症化する。現在、爪白癬を熱心に診ている医師の間では、症状の程度に関係なく爪白癬は飲み薬という考えです」

 肝機能障害がある人には爪白癬の飲み薬は使えないと言われがちだが、現在主に使われている飲み薬(テルビナフィン塩酸塩/ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物)は多少の肝機能障害があっても問題ない。併用できない禁忌薬もない。

「多剤併用の観点から『すでに(持病で)たくさん薬を飲んでいるので、これ以上増やすのは……』という患者さんもいます。しかし爪白癬の飲み薬は、最短3カ月で終わる。現在10種類の薬が11種類に増えたとしても、それはわずかな期間のことです」

 爪白癬は、放置するデメリットがかなり大きい。場合によっては、寿命にも関係する。

 しっかり完治させるためには、飲み薬なのだ。

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