「専門医」と「一般医」は何が違う? 医療機関の看板だけではわからない

「しんクリニック」の辛浩基院長
「しんクリニック」の辛浩基院長(提供写真)

 病院選びで重視することは何か? 人によっては医師の性格であったり、通いやすさと答えるだろう。しかし、最も気になるのは医師としての技量ではないか。それを担保するものとして「専門医資格」がある。しかし、そもそも専門医資格はどのようなもので、どのようにして取得するのか。一般医と何が違うのか。「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

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「専門医とは医師の診療の質を担保し標準化するために制定された資格のことです。一度取得すると更新なしの医師免許と違って、専門医資格は取得するにも継続するにも一定の条件を満たす必要があります。この制度の目的は医師に教育と研鑽を求めることで、診療の質を維持することです」

 専門医資格を取得するには、各専門領域の学会が指定する専門医研修指定施設で一定期間専門研修を受けた後に、試験や審査などを受けて、専門医と名乗るにふさわしい能力があることを証明する必要がある。各専門領域の学会がそれを認定した場合にのみ、専門医資格を保有できる。

 また、資格取得後は一定期間ごとに更新が必要となる。その都度、知識や学会での活動実績などを審査することで、生涯にわたり専門領域の研鑽を積むよう促されるという。

 一般社団法人日本専門医機構によると、学会は基本領域19領域とスペシャリティ領域24領域がある。

「医師が忙しい中、専門医資格取得を目指すのは、患者さんや医師仲間の間での信頼につながるからです。専門医資格を取得すると自身の所属する医療機関のウェブサイトや履歴書に記載できるため、専門技術があることなどの証しにもなります。むろん、専門医資格を継続するために日々研鑽するのですから、新しい医療技術などについても勉強することになります」

 よく、医療機関の看板に書かれている標榜診療科=専門医資格と思い込んでいる人がいるが、これは間違い。標榜診療科は各医療機関が独自に自身の得意領域を医療法に準拠した範囲で自由に標榜したものである。

■「クリニカルイナーシャ」にも違い

 患者として気になるのは、専門医と一般医とで診療に大きな違いがあるのか、だ。

「一般医の中には、長いキャリアがあり、わざわざ専門医資格を持つ必要はないと考える人もいて、必ずしも専門医資格を持っている医師が優秀であるとは言い切れません。ただし、一般的には専門医資格のある医師は、一般医に比べて『クリニカルイナーシャ(臨床的惰性)』が少ないと言われています」

 クリニカルイナーシャとは「治療目的が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていない状態」を指す。その原因は医療者側、患者側、医療システムなどにあり、その項目も多岐にわたる。

 たとえば、糖尿病治療においてのクリニカルイナーシャは医療者側からは医療費がアップすることへの懸念、副作用への懸念、患者の管理能力への懸念などであり、患者側からは血糖マネジメントが困難になることへの認識不足、薬が増えることへの懸念、医療費アップへの懸念など。医療システムからはガイドラインの欠如、患者への積極関与の欠如などがある。

「糖尿病におけるクリニカルイナーシャは血糖コントロールが困難な状態を長引かせ、結果的に合併症のリスクを上昇させることで、平均寿命を短くするとされています」 実際、カナダで行われた研究ではHb(ヘモグロビン)A1c値が8%以上である65歳以上の患者において、プライマリーケア医(一般内科医)の診察を受けた1911人のうち治療が強化されたのは37.4%に過ぎなかったのに対して、専門医の診察を受けた591人のうち治療が強化されたのは45.1%だったとの報告もある。

 これは、HbA1cが上昇した際、専門医の方がインスリンをより多くの患者に投与し始めたことによる。つまりは、一般内科医は専門医より治療強化をためらいやすいということであり、クリニカルイナーシャの影響を受けやすいということかもしれない。

「昔に比べて薬の種類が増えて、劇的に効く薬も登場しているいま、積極的に病気と向き合いたいという患者さんは専門領域の医療情報に通じた専門医にかかることのメリットは大きいかもしれません」

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