「パパ活」「性感染症」「不妊症」…“貧困ニッポン”でジワジワ広がる背景

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「世界第3の経済大国」の日本が、今年の名目GDP(国内総生産)で日本の3分の2の人口のドイツに抜かれ4位に転落した。すでに昨年のIMF(国際通貨基金)のデータでは国民1人当たりの名目GDPはイタリアに抜かれて32位。ニッポンは“貧しい国”へまっしぐらだ。そんな中、蔓延しつつあるのが「パパ活」「性感染症」「不妊症」だ。

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「かつてクリニックに駆け込んできたのはプロかいかにも遊んでいる女性でした。しかし、最近は昼間に働く普通に生活している女性が増えている気がします。話を聞くとマッチングアプリなどのパパ活で感染したと言う。背景には女性の孤独と貧困、結婚への絶望と将来の経済的不安があるようです」

 こう言うのは日本一の風俗街、東京・新宿「歌舞伎町」に隣接する性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長だ。

 風俗で働く30~40代女性の多くは子連れのシングルマザー。

「働いてもお金が足りず、風俗入りするケースが多い」(風俗店店員)という。

 実際、母子家庭を取り巻く経済環境は厳しく、貧困率は5割、「2019年の国民生活基礎調査の概況」によると、就労による収入は平均306万円で児童のいる世帯の半分以下。その半分以上が非正規雇用とも言われている。

 最近は孤独の寂しさを埋めるためホストにはまり、マッチングアプリを使ったパパ活に励む女性や大学奨学金を返すためやむなくパパ活に走る若い女性もいるという。

 気になるのは、「ワンオペ」に代表される結婚への絶望感と、「FIRE」への憧れからパパ活に手を染める女性も少数ながらいることだ。

「パパ活の理由として、早く仕事を辞めて自由に暮らしたい、そのためにお金を貯めたいという女性もいます」(前出の風俗店員)

 ワンオペとはパートナーの単身赴任や残業で、夫婦のどちらかに負担が大きくかかり、実家などに頼れる人がいない状況を言う。FIREとは経済的自立と早期退職という英語の頭文字から作られた言葉で、早くお金を貯めて早期退職を目指すことだ。

「いまの若い人の多くが終身雇用が終わった会社を信じておらず、FIREを目指している。とくに女性はその傾向が強い。周囲の既婚女性からその苦労話を聞くうちに、ワンオペは将来の自分と考えて結婚をあきらめ、ひとりで生きるため経済的自立を目指したいのでしょう」(証券会社営業マン)

■背景にある女性の貧困と孤独

 女性たちの間で最近、増えている性感染症が「梅毒」だ。国立感染症研究所発表の感染症発生動向調査週報(IDWR)速報データ2023年第42週(10月16~22日)によると、新規報告者数172件、累積数1万2165件。前年の累計数字を上回っている。

「梅毒も深刻な性感染症ですが、私が気にしているのは『淋病』です。性感染症で報告数1位は男女とも性器クラミジアですが、それは自覚症状が乏しい(男性約50%、女性約20%)とはいえ、感染力が強く全体の患者数が多いからです。一方、女性の2位は性器ヘルペスで男性の2位は淋菌感染症、いわゆる淋病です。なぜ、女性の2位が淋病でないかと言えば、女性の淋病は男性ほど自覚症状が強く出ないからです。そのため発見が遅れがちで、それが将来の不妊症につながりやすいのです」(尾上院長)

 淋病は淋菌による感染症で、男性で尿道炎、女性は子宮頚管炎を起こすことが多い。感染症法の5類定点把握疾患で、2007年以降は年間1000件弱の報告数でほぼ横ばい。しかし、2020年以降は男女ともに増加傾向にある。

「淋菌感染症は男性の場合は2~9日の潜伏期間を経て尿道から膿が出て排尿痛があることが多い。女性は症状が軽く自覚しないまま経過することが多く、クラミジア感染症と同じように骨盤炎症性疾患、卵管不妊症、子宮外妊娠などの原因となることが知られています」(尾上院長)

 2020年の不妊治療実績件数は約45万件。むろん、その大半は食生活や運動習慣の変化などに伴う体形の変化や出産の高齢化などが原因で性感染症とは無縁だ。しかし、軽い気持ちでパパ活に手を出し、性感染症に感染し、それが原因で不妊症となる。そんな女性もいると尾上院長は言う。

「『性感染症にかかっても今はいい薬があるから治るのでしょう』とタカをくくっている女性がいますが、間違いです。女性には男性と違って子供を産む能力が備わっています。若いうちはそのことにピンとこないかもしれませんが、性感染症によって子供が欲しくなってもできないことに悩む女性も少なくないのです」

 性感染症の蔓延と少子化の背景には若い女性の貧困と孤独、結婚に夢を持てず、結果的にひとりで生きていくことを強いる社会があるのではないか。これらの問題は社会全体が本気で考えるべき課題ではないのか。

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