糖尿病は“治る”時代…いまこそ患者への偏見を是正すべきだ

糖尿病は予備軍を含めると2000万人が罹患している国民病
糖尿病は予備軍を含めると2000万人が罹患している国民病

 医学が急速に進み、多くの病が克服されつつある。「病の帝王」と呼ばれる「がん」ですら、生還する人が増えている。にもかかわらず、病気に関する不正確な知識や情報に基づき負の烙印「スティグマ」を押すケースが後を絶たないのはどうしたことか。

 とくに糖尿病は新たなタイプの薬や治療パターンの登場で「一度かかったら治らない」時代は過去のものになりつつあるが、いまだに糖尿病であるが故に社会的不利益を被っている人が多い。皆が糖尿病について正しい知識を持ち、差別をやめるべきだ。

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 糖尿病は予備群を含めると2000万人、成人のじつに4人に1人が罹患している国民病だ。身の回りに1人や2人いそうなありふれた病気である。にもかかわらず、昔から、糖尿病患者にはある種のスティグマがついて回る。スティグマとは一般に「恥・不信用のしるし」「不名誉な烙印」を意味する言葉だ。

 たとえば「糖尿病になるのは食欲が抑えられず、運動嫌い、自己管理ができないだらしない性格の人」といった具合だ。「一度かかったら治らず、悪化するだけの病気」という先入観があり、インスリン注射など始めようものなら、「あの人は糖尿病の合併症を発症していずれ中途失明、慢性腎臓病から透析、動脈硬化などから脳梗塞や心筋梗塞になって死んでしまう」などと邪推されてしまう。

 それは単なる邪推にとどまらない。一度糖尿病と診断されると「健康な人より短命になりやすく他の加入者と不公平になるから」と生命保険の加入を断られて住宅ローンを組めなかったり、割高な保険料を押し付けられたりする場合が少なくない。さらには、結婚や就職の障壁になったりする。

 こうした差別は、知らず知らずのうちに糖尿病患者の心を侵食し、「自分は糖尿病だから」と消極的になり、自己肯定感を喪失するケースもある。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に聞いた。

「糖尿病患者の方は日常的に差別を受けます。たとえば飲み会でも『○○さんは糖尿病だからコレは食べない方がいいね』などと妙に気を使われたり、『一度口にするとやめられなくなるんじゃない?』などと言われ、結果として楽しめない、という患者さんは多くいます。そもそも糖尿病になる人は性格的にだらしない、というのは正しくありません。日本人は遺伝子の関係で欧米人に比べてインスリンの分泌量が少なく、糖尿病になりやすいのです。しかも、寿命が延びたため、日本人は高齢化率が高い。高齢になれば糖尿病の人も増えてくるのは当たり前です」

■しっかり治療していれば平均余命に差はない

 糖尿病の人は短命というのも正しくない。若年発症者の平均余命が短いのは事実だが、早期治療で心血管疾患の合併症などを回避できれば余命を大幅に伸ばすことも可能だ。

「医療技術が進み、糖尿病患者さんはきちんと治療して血糖コントロールができていれば健康な人とほとんど変わらない健康寿命になっています。そもそも糖尿病の人は短命というのは未治療だったり、治療時期が遅すぎて血糖コントロールができていない人の場合を指すケースが多かったのですが、いまは企業の定期健診などにより重度の患者さんは少なくなりつつあります」

 実際、40歳時点の平均余命を見てみると、2000年度の簡易生命表(厚労省「日本人の平均余命」)では、男性39年、女性45.5年。1995~2001年に調べた6140人の糖尿病患者の調査結果は男性39.2年、女性は43.3年。両者はほとんど差がなく、しかも、これらは20年以上前のデータだから、いまはその差がさらに改善している可能性がある。

「糖尿病は一度かかったら治らない」というのも間違いだ。世界中で「糖尿病は治る」論文は続々出ていて、今春には新潟大学大学院の研究チームが2型糖尿病患者の100人に1人は寛解(薬なしで診断基準未満を3カ月以上キープ)しているとの研究結果を発表している。

「早期に治療すれば治ったり、寛解することもできるようになりました。それは、中途失明や透析、脳梗塞や心筋梗塞のリスクがほぼ健康な人と変わらなくなりつつあるということです」

 糖尿病の人への偏見を放置すると、糖尿病の人が社会的に不利益を被るだけでなく、治療に向かわなくなるという弊害をもたらす。それは結果として国民医療費の増大につながり、国民一人一人の税負担にもつながる。糖尿病について、できるだけ多くの人が正しい知識、情報を得て、差別をなくすことが大切だ。

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