感染症別 正しいクスリの使い方

「薬害」が感染症を引き起こす…日本で何度も起こっている

薬害により感染症が発生したケースも多く知られている
薬害により感染症が発生したケースも多く知られている

 前回、大腿四頭筋拘縮症の薬害問題について少しだけ触れました。これまで、日本でもたくさんの薬害が起こってきましたが、薬害により感染症が発生したケースも多く知られています。

 以前、当連載でも紹介したクロイツフェルト・ヤコブ病(ヤコブ病)では、脳外科手術の際に切除した硬膜を補充するために使われるヒト乾燥硬膜製品が汚染されていたことで、手術を受けた患者から後にヤコブ病を発症した被害者が多く発生したという事件がありました。日本のケースでは、被害者と家族が国やメーカーなどを被告として薬害訴訟を提起し、2002年に和解が成立しています。

 ヤコブ病の病原体(プリオン)の潜伏期間は非常に長いため、これらを受けて03年には改正薬事法が施行され、人の血液や組織に由来する原料を用いた製品を「特定生物由来製品」と定義し、それまで10年だった使用記録の保存期間が20年に延長されました。それまでは10年保管で廃棄していた記録が20年保管に変わってしまったので、当時も病院勤務だった私は、1993年以前の記録についても紙カルテなどから探し出したことを覚えています。

 ほかに薬害によって感染症が起こったケースとして、血液凝固因子製剤による薬害エイズ事件や薬害肝炎なども知られています。薬害エイズ事件では、当時の厚生省が承認した非加熱血液製剤にHIVが混入していたことにより、主に1982年から85年にかけて、これを治療に使った血友病患者の3割、約1400人もの方がHIVに感染してしまいました。

 薬害肝炎では、血液凝固因子製剤の投与によってC型肝炎ウイルスに感染してしまった被害者の数は正確には分かっていません。1980年以降にフィブリノゲン製剤の投与を受けた患者は約29万人で、そのうち1万人以上がC型肝炎を発症したと試算されています。

 薬の専門家である薬剤師は、こうした薬害を未然に防ぐことも大きな使命であると考えます。繰り返される薬害を教訓とし、このようなことが二度と起こらないよう活動を続けていきたいと強く思っています。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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